解説 · 2026年8月時点
カザフスタン証券取引所(Kazakhstan Stock Exchange、KASE)は、1993年に設立されたカザフスタンの総合取引所である。株式と債券だけでなく、外国為替、レポ、通貨スワップまでを同じ場で運営しており、この国の金融市場の中枢にあたる。テンゲの公式レートはここでの取引結果から決まり、財務省の国債入札もここで行われる。
2018年にアスタナ国際取引所(AIX)が開業してからは、カザフスタンに2つの取引所が併存している。KASEはカザフスタン国内法の下にあり、筆頭株主は国立銀行である。AIXは英国法の原則に基づくアスタナ国際金融センター(AIFC)の法域に置かれる。国有企業のIPOでは両取引所への同時上場が定着し、カズムナイガスとエア・アスタナはいずれもこの形をとった。
2026年7月1日時点で1,015銘柄・306発行体の非政府証券が上場し、株式の時価総額は同年8月28日時点で50兆3,597億テンゲ(1,089億ドル)である。KASE自身の説明によれば、証券の売買代金では独立国家共同体(CIS)の取引所で2位、株式時価総額ではFEAS加盟取引所で5位にあたる(2025年末時点)。
| 正式名 | Kazakhstan Stock Exchange JSC(KASE) |
|---|---|
| 設立 | 1993年11月17日。国民通貨テンゲ導入の2日後に「カザフスタン銀行間通貨取引所」として発足 |
| 所在 | カザフスタン・アルマトイ。2023年にアスタナにも事務所を開設 |
| 法域と規制 | カザフスタン国内法。証券市場での取引組織・清算の免許(2012年)と、国立銀行が交付した銀行業務の免許(2020年)を持つ |
| 株主 | 国立銀行47.00%、第2階層銀行34.16%、個人5.46%、証券会社5.24%、その他8.12%(2026年8月1日時点)。発行済株式は107万5,231株 |
| 経営 | 取締役会議長はアリヤ・モルダベコワ氏、経営委員会議長はアディル・ムハメジャノフ氏 |
| 子会社 | KASE清算センター(KACC)。2023年に株式市場の清算・決済と中央清算機関の機能を移管した |
| 取扱商品 | 株式、預託証券、社債、カザフスタン国債と外国国債、国際金融機関債、ユーロ債、投資信託とETF、デリバティブ、外国為替、レポとスワップ |
| 決済 | 流動性の高い証券はT+2、低い証券はT+0 |
| 会員 | 64社(2026年8月時点)。銀行、証券会社、国立銀行、中央証券預託機関を含む |
| 上場銘柄 | 非政府証券1,015銘柄・306発行体(2026年7月1日時点)。うち株式は88銘柄・75社、社債は765銘柄・169発行体 |
| 株式時価総額 | 50兆3,597億テンゲ=1,089億ドル(2026年8月28日時点) |
| 主要指数 | KASE指数。2026年8月28日時点で8,131.71。構成は10銘柄 |
| 売買代金 | 2026年上期の合計261兆9,000億テンゲ(前年同期比48.8%増)。うちレポ173兆1,000億、通貨スワップ48兆9,000億、外国為替31兆5,000億テンゲ |
| 自社の上場 | ティッカーKASEで自らの株式を上場している |
| 国際的な位置づけ | 国際取引所連合(WFE)とユーロアジア証券取引所連盟(FEAS)の会員。越境取引基盤タバドゥルに参加 |
沿革
発足は通貨制度の切り替えと直結している。1993年11月15日にカザフスタンが独自通貨テンゲを導入し、その2日後の11月17日、外国為替市場を組織するために「カザフスタン銀行間通貨取引所」が設立された。11月19日には米ドルとテンゲの最初の取引が行われている。当時は立会場での肉声による取引で、1ティン刻みの値付け、需給を突き合わせて1本の値を決めるフィキシング方式だった。11月26日にはロシア・ルーブルの取引も始まった。
1994年に財務省の国債入札が始まり、1995年に「カザフスタン銀行間通貨証券取引所」へ改称して国債の取引免許(第1号)を得た。1996年に現在の名称となり、テンゲ・ドルの為替先物という最初のデリバティブ取引も行われた。上場株式の取引が始まったのは1997年、社債は2000年である。2001年には全取引の合計が初めて1兆テンゲを超えた。
2006年にカズムナイガスEPとカザフテレコムがIPOを行い、2007年にはKASE自身が営利企業へ移行(商業化)するとともに、現在のKASE指数の算出が始まった。2012年に清算業務と一部の銀行業務の免許を取得して清算部門を内部に設け、2013年にWFEの正会員となった。2015年には国連の「持続可能な証券取引所」イニシアチブに参加している。
2018年10月10日にモスクワ取引所と戦略提携を結び、2020年に同取引所のASTS+売買・清算システムを株式市場と外国為替市場に導入した。2021年にはKASEグローバル部門を開設し、2023年には清算・決済と中央清算機関の機能を子会社のKASE清算センターへ移した。2024年にはエア・アスタナのIPOを扱い、欧州証券市場監督機構(ESMA)から取引情報の透明性に関する認定を受けた。
市場の構成
公式リストは4つのボードに分かれる。設立から3年以上を経て一定の収益実績がある大企業向けの「メイン」、中小企業向けに要件と開示義務を緩めた「オルタナティブ」、国債・国際金融機関債・投資信託・イスラム証券など特別な目的の証券を置く「ミックス」、適格投資家に限って私募される証券の「私募」である。2021年11月にはミックスの中にKASEグローバル部門が新設され、外国株式、預託証券、ETFが取引できるようになった。
このほか外国為替市場、レポ市場(自動レポと相対レポ)、通貨スワップ市場、デリバティブ市場を運営する。証券市場での取引組織とクリアリングの免許に加えて国立銀行から銀行業務の免許も得ており、取引所自身が参加者の口座管理と資金振替の一部を担う。決済は流動性の高い証券がT+2、それ以外がT+0である。
2026年上期の売買代金は全市場の合計で261兆9,000億テンゲに達したが、その内訳を見ると資金の貸借が圧倒的である。レポが173兆1,000億テンゲ、通貨スワップが48兆9,000億テンゲ、外国為替が31兆5,000億テンゲで、株式は2,259億テンゲにすぎない。KASEは銀行間の資金繰りの場としての比重が非常に大きい取引所である。
デリバティブ市場は制度としては整っているものの、ほとんど動いていない。2026年上期にドル・テンゲとルーブル・テンゲの通貨先物で成立した取引は149件、合計23億テンゲだった。
外国為替市場と国立銀行との関係
KASEの成り立ちが通貨取引所であることは、いまも市場の性格に残っている。取引されるのは米ドル、ユーロ、ロシア・ルーブル、中国人民元、アラブ首長国連邦ディルハムとテンゲの組み合わせ、および外貨どうしの組み合わせで、標準の受渡は1日後(TOM)または当日(TOD)である。
この市場の値は制度上の意味を持つ。カザフスタン国立銀行は、取引所で成立したテンゲ対米ドルの加重平均レート(アスタナ時間15時30分時点)を翌営業日の公式レートとして採用し、他通貨は16時時点のクロスレートから算出する。この方式は2016年2月2日から変わっていない。テンゲの公式レートは、中央銀行が決めるのではなくKASEの板から決まる。
2026年上期の外国為替の売買代金は31兆5,000億テンゲで、前年同期から51.8%増えた。通貨別の内訳は米ドルが74.6%、ロシア・ルーブルが17.5%、中国人民元が2.6%である。人民元建ての取引は前年同期の2.3倍に増えた。テンゲの対米ドル相場は年初から6月末までに5.1%上昇し、6月末で1ドル479.98テンゲ、8月28日には464.54テンゲとなった。
国立銀行はKASEの47.00%を保有する筆頭株主でありながら、同時に金融政策の当事者としてこの市場で介入も行う立場にある。読み手はこの点を念頭に置いて、公式レートの決まり方と株主構成を見ておく必要がある。
国債・社債市場
KASEに上場する国債の残高は2026年6月末で額面36兆3,000億テンゲ(746億ドル)に達し、年初から13.8%増えた。同年上期には財務省が24銘柄(新発7、追加発行17)で3兆2,000億テンゲを調達し、利回りは年14.00〜19.18%、償還までの期間は0.8年から14.0年に及んだ。17の州とアスタナ市・シムケント市の地方政府(アキマト)も2,677億テンゲを調達している。流通市場では中期国債が71.8%、国立銀行手形が17.3%、共和国のユーロ債が6.3%を占めた。
社債の残高は2026年6月末で16兆8,000億テンゲ(346億ドル)、上場銘柄は765件・169発行体である。同年上期には41発行体が107銘柄で合計2兆3,000億テンゲを起債した。うち第2四半期は35発行体・66銘柄で1兆6,000億テンゲにのぼり、額の大きい順にバイテレク国家投資持株会社(3,000億テンゲ)、オトバス銀行(1,000億テンゲ)、カザフスタン持続可能性基金(750億テンゲ)、産業開発基金(700億テンゲ)、カザフスタン住宅公社(500億テンゲ)が並んだ。国家系の政策金融機関が発行額の大半を占める構図である。同じ四半期の利回りは、テンゲ建てが年16.19〜23.50%、ドル建てが年5.00〜11.00%だった。
国際金融機関の債券も定着している。2026年6月末で7機関の59銘柄が上場し、内訳はユーラシア開発銀行25、欧州復興開発銀行13、アジア開発銀行12、国際復興開発銀行4、国際金融公社2、欧州投資銀行2、イスラム民間セクター開発公社1である。これらの機関がテンゲ建てで起債することは、国内の債券市場に長期の指標を与える役割も持つ。
株式市場とKASE指数
株式の上場は2026年6月末で88銘柄・75社である。売買代金は2026年上期で2,259億テンゲ、前年同期比38.3%増だった。1日平均は19億テンゲ、1日平均の約定件数は1万24件、1件あたりの平均は19万1,000テンゲで、小口の個人取引が中心であることが数字に表れている。実際、流通市場の投資家別の内訳は個人が50.4%を占め、非居住者は11.4%にとどまる。
KASE指数は10銘柄で構成される。2026年上期は9.7%上昇して7,712.53で折り返し、4月21日に7,972.88の当時の最高値を付けた。8月28日時点では8,131.71である。上期に最も上昇したのはカズムナイガスの56.5%で、原油価格の上昇が背景にある。次いでカザトムプロムが22.5%、カズトランスオイルが19.4%上昇した。一方でエア・アスタナは28.2%、カザフテレコムは7.7%、KEGOCは7.1%下落している。指数採用銘柄の売買代金は上期で1,429億テンゲだった。
KASEグローバル部門では、2026年6月末で外国株式49銘柄、ETF25銘柄、米国預託証券3銘柄が取引できる。上期の売買代金は1,395億テンゲで前年同期の3倍を超えた。約定件数が多かったのはビットコイン先物連動ETF、エヌビディア、インテルである。国内株より小さい単位で海外の有名銘柄を売買できることが、個人投資家の入口になっている。
2026年には、国立銀行からデジタル金融資産のプラットフォーム事業者として登録第1号(番号001)を受け、規制のサンドボックスの枠組みでビットコイン、イーサリアム、ソラナの現物ETFを上場した。同年4月にはKASE指数に連動する国内初のETFの取引も始まっている。
国民IPOと国有企業の上場
カザフスタンの株式市場を厚くしてきたのは、政府系ファンドのサムルク・カズナが傘下企業を段階的に公開する政策である。2011年に打ち出された「国民IPO」の構想は、国有資産を国民に分けて持たせると同時に国内市場を育てることを狙っていた。第1号は2012年12月のカズトランスオイルで、1株725テンゲで3,846万3,559株、278億8,600万テンゲを売り出し、3万4,687件の申込みが満たされた。第2号は2014年12月のKEGOCで、1株505テンゲで2,600万株、131億3,000万テンゲを売り出し、4万1,991件の申込みが満たされた。
2012年12月にはケーセル(Kcell)も上場したが、その後は国民IPOの計画が停滞した。再開したのは2022年12月のカズムナイガスで、1株8,406テンゲで1,635万3,049株、1,374億6,400万テンゲを売り出し、12万1,770件の申込みを集めた。この案件からKASEとAIXの同時上場が標準になっている。2023年11月にはKEGOCの追加売り出し(1株1,482テンゲ、186億8,000万テンゲ)、2024年2月にはエア・アスタナのIPO(1株1,073.83テンゲ、492億4,100万テンゲ)が続いた。エア・アスタナはロンドン証券取引所にも預託証券を上場している。
一方で、カザトムプロムの2018年のIPOはロンドン証券取引所とAIXの2市場で行われ、KASEは含まれなかった。国有企業の公開でどの市場を使うかは案件ごとに異なる。2026年7月1日時点でKASEに上場する預託証券は4銘柄で、原資産はカザトムプロム、ハリク銀行、カスピ・ケーゼット、エア・アスタナの普通株である。
モスクワ取引所との資本関係の変遷
2018年10月10日、KASEはモスクワ取引所と戦略協力協定を結んだ。技術と資本の両面での提携である。売買・清算システムのASTS+はモスクワ取引所の技術で、2020年に株式市場と外国為替市場へ導入された。資本面では、2024年6月1日時点でモスクワ取引所がKASEの発行済株式の13.1%を保有していた。
関係が崩れたのは制裁による。2024年6月12日、米財務省外国資産管理局(OFAC)がモスクワ取引所とその清算機関・預託機関を制裁対象に指定した。KASEは2024年10月11日、モスクワ取引所が保有株を処分し株主から外れたこと、および2018年の戦略協力協定と関連する諸契約を終了したことを発表した。2026年8月1日時点の株主構成に同社の名前はなく、筆頭株主は国立銀行である。
この件はKASEとAIXの統合構想にも影響した。2023年にトカエフ大統領が2つの取引所の統合を検討するよう指示していたが、制裁対象企業が一方の株主に入っている状態では手続きを進められなかった。国立銀行は2025年7月10日、統合の手続きは中断しており、両取引所の構造と機能の分担は変わらないと表明している。
AIXができて何が変わったか
2018年にAIXが開業するまで、カザフスタンの企業が国内で株式や社債を上場する先はKASE以外になかった。AIXの登場は、この国の資本市場に「同じ国の中に法域の異なる2つの市場がある」という他にあまり例のない構造をもたらした。
最も分かりやすい変化は、大型の国有企業案件で両取引所への同時上場が標準になったことである。カズムナイガス(2022年)とエア・アスタナ(2024年)はいずれもKASEとAIXの双方に上場した。同じ株式が2つの中央証券預託機関にまたがって保管され、アルマトイの中央証券預託機関がAIX CSDの参加者になっていることで、保有をどちら側にも移せる。投資家から見れば売買の場が2つに分かれるため、板と気配は取引所ごとに別々に立つ。
第二に、外貨建ての起債がAIXへ流れた。AIXは発行通貨と決済通貨を一致させる必要がなく、AIFCの税制優遇も付く。カザフスタンの企業や政府が発行するユーロ債やパンダ債はAIXに上場する例が多い。KASEにもドル建てや人民元建ての社債はあるが、テンゲ建ての起債と流通が中心という性格は変わっていない。
第三に、両市場は競合というより役割の違いとして落ち着いてきた。KASEは外国為替と短期金融という、AIXが持たない基盤を握っている。テンゲの公式レートも、財務省の国債入札も、銀行間のレポ市場もKASEにあり、これらは国内法と国立銀行の監督の下でしか成り立たない。国内の個人投資家の口座も圧倒的にKASE側に集まる。一方でAIXは、外国投資家と外貨建ての案件、そして域外の発行体を引き受ける。2023年に示された統合の構想が2025年に中断されたまま両市場が続いているのは、この分担が実際に機能しているためでもある。
第四に、税制の判定が両取引所にまたがるようになった。AIFCに関する憲法的法律に基づく配当の非課税措置には、暦月あたり2,500万テンゲ以上かつ50件以上という流動性の基準がある。重複上場銘柄については、この判定をAIXとKASEの取引実績を合算して行うことが共同命令で定められている。片方の取引所でしか売買していない投資家でも、適用を受けるには両方の取引情報を突き合わせる必要がある。
参考資料
- About KASE — Kazakhstan Stock Exchange(公式) ↗
- History of the Exchange — Kazakhstan Stock Exchange(公式) ↗
- Exchange Shareholders — Kazakhstan Stock Exchange(公式) ↗
- Management — Kazakhstan Stock Exchange(公式) ↗
- KASE presents the exchange market's performance in the 2nd quarter and first half of 2026(公式・PDF、2026年7月14日) ↗
- Shares and ADR/GDR — Kazakhstan Stock Exchange(公式) ↗
- IPO on KASE — Kazakhstan Stock Exchange(公式) ↗
- KASE boards and listing fees — Kazakhstan Stock Exchange(公式) ↗
- KASE Members — Kazakhstan Stock Exchange(公式) ↗
- Foreign currencies — Kazakhstan Stock Exchange(公式) ↗
- Subsidiaries — Kazakhstan Stock Exchange(公式) ↗
- Daily Official (market) Foreign Exchange Rates — カザフスタン国立銀行(公式) ↗
- Equity: income tax exemption eligibility — Astana International Exchange(公式) ↗
- IPO history — サムルク・カズナ(公式) ↗
- Kazakhstan Stock Exchange announces withdrawal of Moscow Exchange from its shareholders — TASS(2024年10月11日) ↗
- Merger of KASE and AIX halted, exchanges to retain current structure, functions — Interfax(2025年7月10日) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年8月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。誤りに気づいた方はお問い合わせください。