解説 · 2026年8月時点
アスタナ国際取引所(Astana International Exchange、AIX)は、カザフスタンの首都アスタナに置かれた証券取引所である。2017年にアスタナ国際金融センター(AIFC)の中核機関として設立され、2018年11月のカザトムプロムの新規株式公開(IPO)とともに取引を始めた。
カザフスタンには1993年設立のカザフスタン証券取引所(KASE)が既にあり、AIXはこの国で2つ目の取引所にあたる。両者を分けているのは規模ではなく法域である。KASEがカザフスタン国内法の下で国立銀行と金融市場規制発展庁の免許を受けて運営されるのに対し、AIXはAIFCという特別の法域に置かれ、英国法の原則に基づく規則とAFSAの監督に服する。上場規則も英国上場当局(UKLA)やドバイ国際金融センター(DIFC)の慣行を取り込んでいる。
2026年6月30日時点で398銘柄・196発行体が上場し、設立以来の資金調達額は累計150億ドルに達した。ただし売買代金は2026年上期で10億8,400万ドルにとどまり、その大半は債券である。国有企業の民営化案件を国際的な形式で捌く場としての役割が先行し、日々の流動性はまだ厚くない。
| 正式名 | Astana International Exchange Ltd(AIX) |
|---|---|
| 設立 | 2017年。取引開始は2018年11月 |
| 所在 | カザフスタン・アスタナ(アスタナ国際金融センター=AIFC構内) |
| 法域と規制 | AIFCの法域。英国法(コモンロー)の原則に立ち、独立規制当局のアスタナ金融サービス機構(AFSA)が監督する |
| 株主 | AIFC(設立者かつ筆頭株主)、中国・カザフスタン産業能力協力基金(シルクロード基金の完全子会社)、ナスダック、上海証券取引所。持株比率は公表されていない |
| 経営 | 取締役会議長はティモシー・ベネット氏(2018年の立ち上げを主導し2021年まで初代CEO)。CEOはアセル・ムカジャノワ氏(2023年9月就任) |
| 取引と決済 | ナスダックの取引基盤。2026年上期にGenium INETへ移行した。決済はT+2 |
| グループ | 中央証券預託機関(AIX CSD)と証券登録機関(AIX Registrar)を自前で持つ |
| 上場銘柄 | 398銘柄・196発行体(2026年6月30日時点)。2026年7月末は403銘柄・193発行体で、内訳は債券293、仕組商品とファンド87、株式23 |
| 外国発行体 | 16社(2026年7月時点)。米国、英国、オランダ、ルクセンブルク、中国、アラブ首長国連邦、キプロス、タジキスタン、キルギス、ギリシャ |
| 調達額 | 設立以来の累計150億ドル、2026年上期は36億ドル(いずれも2026年6月30日時点) |
| 売買代金 | 20億9,200万ドル(2025年通期)、10億8,400万ドル(2026年上期、前年同期の約2倍) |
| 参加者 | 取引参加者69社、カストディアン20社、中央証券預託機関1社(2026年7月時点)。取引参加者の約半数は国外の証券会社 |
| 投資家口座 | 230万口座超(2026年6月30日時点、AIX CSD経由) |
| 主要指数 | AIXカザク指数(AIXQI)。構成15銘柄。2026年6月30日時点で2,232.22、年初来12.85%高 |
| 税制 | AIFCに関する憲法的法律に基づき、上場証券の譲渡益と配当・クーポンが個人・法人とも非課税。配当の非課税には流動性の要件がある |
| 国際的な位置づけ | 英国歳入関税庁が「認定証券取引所」として認めている。FTSEフロンティア指数シリーズの適格取引所であり、アブダビ証券取引所が運営する越境取引基盤タバドゥルにも参加する |
沿革
2017年、AIFCの整備にあわせて設立された。2018年7月5日、アスタナ・ファイナンス・デイズの会期中にAIFCの開所式が行われ、AIXも正式に発足した。実際の取引が始まったのは同年11月で、最初の案件が国営原子力会社カザトムプロムのIPOだった。政府系ファンドのサムルク・カズナが14.92%(3,869万4,708株)を売り出し、ロンドン証券取引所には預託証券(GDR、1単位11.60ドル)、AIXには普通株(1株4,322.74テンゲ)を上場させた。AIXのCEOは後に「AIXの歴史はカザトムプロムのIPOから始まった」と述べている。
その後もカザトムプロムは2019年9月に3.8%、2020年6月に6.28%の追加売り出しをロンドンとAIXの2市場で行った。2022年12月には国営石油会社カズムナイガスがKASEとAIXの同時上場でIPOを実施し、2024年2月にはエア・アスタナがロンドン、AIX、KASEの3市場に上場した。国有資産の民営化計画に伴う公開案件で、AIXが外国投資家向けの窓口を担う形が定着した。
2020年には金融リテラシーの普及を目的とした個人向け投資アプリ「タビス」を自ら立ち上げたが、2025年に事業をタビス社へ売却し、運営から手を引いている。アプリ経由で取得された証券の保管と移管はAIX CSDとAIX Registrarが引き続き扱う。
2024年4月、アブダビ証券取引所が運営する越境取引基盤タバドゥルに参加した。2026年上期にはナスダックの新しい取引システムGenium INETへ移行し、同年4月にはアルティンアルマスの普通株と優先株について、新規資金を調達しない直接上場を初めて実施している。
なぜ別の取引所を作ったのか
カザフスタンは1990年代から国内に証券市場を持っていた。それでも別の取引所を作ったのは、市場の器が足りなかったからではなく、外国投資家が国内法の下で資産を持つことを避けてきたからである。旧ソ連圏の司法と会社法に対する警戒は、開示や監査の水準を上げるだけでは解けない。AIFCは、この問題を制度ごと迂回する仕掛けとして設計された。域内の商事紛争には英国法の原則に基づく独自の法体系が適用され、専用のAIFC裁判所と国際仲裁センターが英語で裁く。AIXはその法域の上に置かれた取引所である。
実務面の差も大きい。AIXは通貨をほぼ選ばず、商品の発行通貨と決済通貨を一致させる必要がない。ドル建て、人民元建て、ディルハム建ての債券がテンゲ建て銘柄と同じ場で扱われる。証券会社はAIFCの免許を取得しなくても、認定の手続きを経れば取引参加者になれる。上場証券の譲渡益と配当・クーポンには、AIFCに関する憲法的法律に基づく非課税措置が適用される。いずれも、国内法の枠内では用意しにくい条件である。
棲み分けを一言でいえば、KASEがテンゲ建ての国内市場と通貨・短期金融の基盤を担い、AIXが外貨建ての国際案件と域外の発行体を引き受ける。2026年上期にAIXが関与した案件を並べると、サムルク・カズナ(2026年4月、30億元、利回り年2.18%。中央アジアの発行体として初)と共和国政府(同年5月、34億元、クーポン年1.90%)によるパンダ債、カスピ・ケーゼットの6億ドル債、カザフスタン鉄道の2回合計10億ドル債、カザフガスの7億ドル債といった外貨建ての大型案件が中心である。テンゲ建て社債の日々の発行はKASEに集まっている。
2023年、トカエフ大統領は2つの取引所が互いに重複し競合していると述べ、統合の検討を指示した。しかし国立銀行は2025年7月10日、統合の手続きは中断しており、両取引所の構造と機能の分担は変わらないと表明した。中断の背景には、KASEの株主だったモスクワ取引所が2024年6月に米国の制裁対象となった事情がある。2026年8月時点で、二市場の併存はそのまま続いている。
上場の仕組みと扱う商品
株式の上場には5つの経路がある。標準的なIPOとSPO、浮動株の時価総額が2億ドルを超えない成長企業向けのREMS、探鉱段階の資源会社向けのジュニア・マイニング、同等の規制を受ける取引所からのクロス上場、そして新規資金を調達しない直接上場である。標準の経路では、AIFC市場規則に適合する目論見書、10%の浮動株比率、3年分の監査済み財務諸表、少なくとも1期の黒字、100万ドル以上の売り出し規模、マーケットメイカーの設置が求められる。REMSでは要約を省いた目論見書と1年分の財務諸表で足りる。ジュニア・マイニングでは目論見書の6か月前までに専門家報告書を提出する。
債券は投資家の範囲と手続きの重さで5類型に分かれる。誰でも買える公募債は完全な目論見書を要し、免除債・ホールセール債・コマーシャルペーパーはプロ投資家に限って簡素な書式で発行できる。中小企業向けのSME債は50万ドル以上500万ドル以下、期間37か月までという枠で、格付けを求められない。
このほか、環境・社会目的に紐づくサステナブル債(第三者専門家の適合報告と発行後の資金充当報告が必須)、イスラム法に適合するスクーク(シャリア諮問委員会の承認と有形資産の裏づけが必要)、仕組商品と投資ファンドを扱う。2026年7月末の上場内訳は債券293銘柄、仕組商品とファンド87銘柄(ETF30、仕組債39、ETN18)、株式23銘柄で、銘柄数でも売買代金でも債券が中心である。
域外の発行体を呼び込む取り組みも続いている。金生産のソリッドコア・リソーシズ(旧ポリメタル・インターナショナル)は2023年8月7日付で登記地を英ジャージー島からAIFCへ移し、AIXを主たる上場先とした。2025年には鉱山会社Jiaxin International Resourcesが香港取引所と同時にIPOを行っている。2026年7月時点で16社の外国企業が上場し、その所在は米国、英国、オランダ、ルクセンブルク、中国、アラブ首長国連邦、キプロス、ギリシャに加え、タジキスタンとキルギスにも及ぶ。
決済・保管・登録
AIXは取引だけでなく、清算・決済・保管・株主名簿の管理までを自前で持つ。中央証券預託機関のAIX CSDは、国際決済銀行(BIS)のモデルIIに従い、証券は総額ベース、資金は純額ベースで振り替える。取引所取引の決済はT+2、店頭取引は参加者の指図による。決済銀行にはバンク・センタークレジットとシティバンク・カザフスタンが入り、システムはアヴニール・テクノロジーが供給する。SWIFTのISO 15022とISO 20022に対応し、ISO 27001をはじめとする情報セキュリティ規格の認証を受けている。欧州中央証券預託機関協会(ECSDA)の準会員でもある。
AIX Registrarは株主名簿の管理に加え、AIFC域内の国際証券識別番号付番機関(NNA)を務める。2026年上期末までに発行したISINは103件である。2025年9月からは、上場や取引所への上場承認を伴わない非上場証券の発行・決済・保管をプロ投資家向けに提供しており、2026年上期に19件の利用登録があった。
越境の接続も進めている。2025年にはナスダック・ドバイとの間で預託機関どうしを直接つなぐリンクを開設し、両市場に重複上場した証券をどちらの預託機関でも保有し、双方の市場で売買できるようにした。アルマトイの中央証券預託機関(カザフスタン国内市場の預託機関)もAIX CSDの参加者として登録されている。
同じ銘柄が両方の取引所に上場する仕組み
カザトムプロム、カズムナイガス、エア・アスタナ、ハリク銀行、カスピ・ケーゼットなどは、AIXとKASEの両方に上場している。これは似た株を2種類発行しているのではなく、同一の株式が2つの預託機関にまたがって保管されている状態である。アルマトイの中央証券預託機関がAIX CSDの参加者になっているため、保有はどちらの側にも移せる。投資家はAIXで買った株をKASEで売ることができるが、そのためには証券をいったん相手方の預託機関へ振り替える必要がある。取引所ごとに板と気配が別々に立つため、同じ銘柄でも一時的に価格が食い違うことがある。
どちらで買うかは、口座を持つ証券会社と決済通貨で決まる。KASEはテンゲ建ての取引が中心で、国内の個人投資家の口座はここに集まる。AIXは複数通貨に対応し、AIFCの免許業者や国外の証券会社を通じた売買が多い。
税制には注意すべき点がある。AIFCに関する憲法的法律に基づく配当の非課税は、銘柄が一定の流動性を満たすことを条件としている。財務省・国民経済省・AIFCの共同命令が定める基準は、暦月あたりの取引金額2,500万テンゲ以上、かつ取引件数50件以上である。重複上場銘柄については、この判定をAIXとKASEの両方の取引実績を合算して行う。片方の取引所でしか売買していない投資家であっても、非課税の適用を受けるには両取引所の取引情報を突き合わせる必要がある、というのが規則の建て付けである。
市場の規模と国際的な接続
売買代金は設立以来おおむね拡大してきた。年ごとの合計は2022年1億7,300万ドル、2023年5億8,200万ドル、2024年13億1,400万ドル、2025年20億9,200万ドル、2026年1〜7月は12億2,000万ドル(前年同期比42%増)である。内訳を見ると2025年は債券16億5,200万ドル、株式4億900万ドル、仕組商品3,200万ドルで、株式は2024年の4億9,500万ドルから減っている。資金調達額は2022年5億5,700万ドル、2023年20億1,600万ドル、2024年22億8,300万ドル、2025年48億8,200万ドル、2026年1〜7月41億6,700万ドルと伸びが速い。
投資家口座は2022年末の約52万4,000から増え続け、2025年末は231万468口座、2026年7月時点で約240万口座に達した。増加のほとんどは国内の個人である。参加者は2025年末で国内ブローカー39社、国外ブローカー27社、国内カストディアン11社、国外カストディアン9社、国内中央証券預託機関1社の計87で、2026年7月時点では取引参加者69社、カストディアン20社となっている。2026年上期にはキルギスの証券会社が初めて取引参加者に加わった。
株価指数のAIXカザク指数(AIXQI)は15銘柄で構成され、2026年6月30日時点で2,232.22、年初来12.85%高、同年4月20日に2,483.68の最高値を付けた。年間の騰落率は2022年がマイナス15.0%、2023年がプラス29.8%、2024年がプラス27.7%、2025年がプラス26.8%である。この指数は、AIXだけでなくKASEとロンドン証券取引所で取引されるカザフスタン関連企業の株価を対象に、浮動株調整後の時価総額と流動性で加重して算出する点に特徴がある。2026年6月30日時点の構成比は、カザトムプロム、フリーダム・ホールディング、カスピ・ケーゼット、カズムナイガスが上限の15.00%、ハリク銀行が11.19%、ソリッドコアが8.70%、Jiaxin International Resourcesが6.56%と続く。
国際的な接続では、株主でもある上海証券取引所が戦略パートナーとして商品設計と市場開拓に関与し、ナスダックが取引技術を供給する。2024年4月に参加したタバドゥルには、アブダビ証券取引所、バーレーン証券取引所、マスカット証券取引所、アルメニア証券取引所、そしてKASEが加わっており、参加取引所のブローカーが互いの市場で売買やIPOへの応募を行える。2026年上期には香港取引所との間で越境の市場接続に関する覚書を結んだ。
参考資料
- Overview — Astana International Exchange(公式) ↗
- AIX Shareholders — Astana International Exchange(公式) ↗
- Board of Directors — Astana International Exchange(公式) ↗
- AIX presents its results for 1H2026 — Astana International Exchange(公式、2026年7月8日) ↗
- AIX Market Overview, July 2026(公式・PDF) ↗
- AIX CSD Statistics 2025(公式・PDF) ↗
- What to list — Astana International Exchange(公式) ↗
- Equity: income tax exemption eligibility — Astana International Exchange(公式) ↗
- Overview CSD — Astana International Exchange(公式) ↗
- AIX Qazaq Index — Astana International Exchange(公式) ↗
- Tabadul Exchange hub — Astana International Exchange(公式) ↗
- Current status of the Tabys mobile application — Astana International Exchange(公式、2026年8月6日) ↗
- Kazatomprom marks the fifth anniversary of its IPO — カザトムプロム(公式) ↗
- IPO history — サムルク・カズナ(公式) ↗
- Merger of KASE and AIX halted, exchanges to retain current structure, functions — Interfax(2025年7月10日) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年8月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。誤りに気づいた方はお問い合わせください。