解説 · 2026年9月時点
コーブ・キャピタル(Cove Capital)は、カザフスタンの重要鉱物に投資する米国の投資会社である。カザフスタン国営鉱業会社タウケン・サムルクと組み、カラガンダ州シェト地区の北カトパルと上部カイラクトゥイという2つのタングステン鉱床を開発する事業体セヴェルヌイ・カトパルLLPの70%を保有する。最低11億ドルの投資義務を負い、採掘から選鉱、冶金処理までをカザフスタン国内で完結させる計画を掲げている。
この2鉱床は、未開発のタングステン資源としては世界最大級とされる。三酸化タングステンの資源量は2鉱床合計で約140万トン(JORC基準)、想定される年産量は合計約1万2,000トンで、世界の鉱山生産のおよそ15%にあたる。タングステンの供給は中国に大きく偏っており、供給源の分散を求める米国政府にとっては戦略的な案件になる。コーブ側は米政府機関を含む買い手とのオフテイク契約の取りまとめを担うと説明している。
会社は非上場で財務は公表されていない。ただし2026年4月30日にナスダック上場企業との統合契約を結んでおり、これが完了すれば米国の開示制度の下で財務が見えるようになる見通しである。
| 正式名 | Cove Kaz Capital Group LLC(デラウェア州のLLC)。親会社はKaz Resources LLC(同)。関連する投資会社としてCove Capital LLCがある |
|---|---|
| 本拠 | 米国。タウケン・サムルクの発表によれば、Cove Capital LLCは2015年設立で、本社をニューヨーク、拠点をメルボルンに置く |
| 事業 | カザフスタンの重要鉱物への投資と開発。タングステン、レアアース、リチウムなど |
| カザフスタンの中核案件 | セヴェルヌイ・カトパルLLP(北カトパル・上部カイラクトゥイのタングステン2鉱床)。コーブ側70%、タウケン・サムルク30% |
| 投資義務 | 最低11億ドル。全額をコーブ側が負担し、タウケン・サムルクは採掘ライセンスの現物出資で参画するため現金を拠出しない |
| 資源量 | 2鉱床合計で三酸化タングステン約140万トン(JORC基準、2023年4月完了の可能性調査) |
| 想定生産量 | 北カトパル年約5,000トン、上部カイラクトゥイ年約7,000トン、合計年約1万2,000トン。世界の鉱山からのタングステン生産の約15%に相当するとされる |
| 主要製品(計画) | パラタングステン酸アンモニウム(APT) |
| 工程 | 最終事業化調査(DFS)を2027年末までに完了、基本設計(FEED)と詳細設計を経て2028年ごろ主体工事着手、2029年から試運転 |
| もう一つの案件 | アクブラク・レアアース事業(コスタナイ州アルカリク南西35キロ)。カズジオロジー25%、コーブ側75%の合弁 |
| 経営 | ピニ・アルタウス創業者兼執行会長、ドミニク・ヒートン最高経営責任者、ダグラス・ニュービー最高財務責任者、アシュリー・マカリース最高執行責任者 |
| 事業会社の代表 | セヴェルヌイ・カトパルLLPの代表者はアミル・トゥレゲノフ氏。事務所はカラガンダ市 |
| 財務 | 非上場のため公表されていない。ナスダック上場のスカイライン・ビルダーズ・グループとの統合が進行中で、完了すれば米国の開示制度の下に入る |
北カトパルと上部カイラクトゥイ
2つの鉱床はいずれもカラガンダ州シェト地区にあり、道路で30キロメートル足らずしか離れていない。州都カラガンダからは約130キロメートルで、既存の鉱業地帯にあたるため輸送と電力の基盤が近い。
北カトパルはウスペンスカヤ剪断帯に位置するタングステン・モリブデン鉱床で、副産物として銅、ビスマス、ベリリウムを伴う。タウケン・サムルクの事業ページによれば、JORC基準の指示資源量と推定資源量の合計は鉱石7,140万トン、含有量は三酸化タングステン14万2,000トン、銅8万トン、モリブデン2万3,600トン、ベリリウム1万3,700トンで、三酸化タングステンの平均品位は0.231%である。
上部カイラクトゥイ(Verkhneye Kairakty。日本語では「アッパー・カイラクティ」とも書かれる)はより大きく、世界有数のタングステン鉱床とされる。2鉱床を合わせた三酸化タングステン約140万トンという数字は、コーブ側の説明ではカザフスタンのタングステン資源量のおよそ7割にあたる。
鉱床そのものは新しい発見ではない。北カトパルは1973年から調査され、1982年に予備探査、1987年から1993年にかけて詳細探査が行われた。タウケン・サムルクは2015年6月19日、北カトパルLLPの持分100%を取得するため、親会社サムルク・カズナとの間で77億7,000万テンゲの借入契約を結んだ。2019年にJORC基準の資源量報告、2021年に予備的事業化調査、2023年4月に可能性調査が完了した。
合弁成立までの経緯
コーブ側とカザフスタンの関係は、2023年9月にサムルク・カズナとコーブ・キャピタルがレアアースを含む重要原料の協力に関する覚書を結んだところから始まる。次いでコスタナイ州のアクブラク鉱区で、カズジオロジー(2023年に議決権株式の100%がタウケン・サムルクへ移管された探鉱会社)と合弁を組む条件書が署名され、2025年3月に正式な合弁契約となった。持分はカズジオロジー25%、コーブ側75%で、資源量が計上されるまでの探鉱費用はコーブ側が全額負担する。
タングステン案件が動いたのは2025年11月である。トカエフ大統領のワシントン訪問に合わせて合弁が発表され、同月24日にはドミニク・ヒートン氏の最高経営責任者就任が公表された。2026年2月13日、タウケン・サムルクとコーブ・カズ・キャピタル・グループは株式譲渡契約(SPA)と株主間契約を含む一連の取引文書に署名した。署名にはサムルク・カズナのヌルラン・ジャクポフ総裁が立ち会っている。
財務上のクロージング、すなわち70%の持分取得の完了は2026年4月29日である。現地では2026年7月から敷地の準備工事が始まり、8月末に着工の式典が開かれた。式典にはカラガンダ州のシンギス・スユンバエフ副知事が出席している。
タウケン・サムルクは、この事業により約2,000人の雇用が生まれると説明している。
「一貫生産」が意味するもの
この事業の特徴は、鉱石を精鉱のまま輸出するのではなく、化学・冶金処理までをカザフスタン国内に置く点にある。現段階で主要製品として検討されているのはパラタングステン酸アンモニウム(APT)で、酸化タングステンやタングステン粉末、炭化タングステン、超硬合金の原料になる中間製品である。精鉱で売るより単価が高く、加工の付加価値を産地に残せる。
ただし工程は長い。最終事業化調査は2027年末までに完了する予定で、これが最終投資判断の土台になる。その後にFEED(基本設計)と詳細設計が続き、主体工事の開始は2028年ごろ、試運転は2029年からとされる。現段階でコーブ側が負担しているのは、敷地工事、掘削計画、DFSの費用である。
ヒートン最高経営責任者はカザフスタンの経済紙クルシフに対し、湿式製錬所を含む2鉱床の総予算は20億ドルに近い水準になるとしつつ、正確な数字はDFSの完了まで言えないと述べている。契約上確定しているのは最低11億ドルの投資義務であり、20億ドルは調査完了前の見積もりである。
経営陣
創業者で執行会長のピニ・アルタウス氏は、米国のレアアース企業USAレアアース(ナスダック上場)の創業者で元最高経営責任者である。オーストラリア上場のチャレンジャー・エクスプロレーションの取締役も務める。
最高経営責任者のドミニク・ヒートン氏は、2010年から2017年までベトナムのマサン・リソーシズの最高経営責任者として、ヌイファオのタングステン鉱山と化学処理設備の建設と操業を主導した。ヌイファオは中国以外では世界最大のタングステン事業とされる。最高執行責任者のアシュリー・マカリース氏も、ヌイファオを運営するマサン・ハイテク・マテリアルズの最高経営責任者を務めた人物である。
最高財務責任者のダグラス・ニュービー氏はUSAレアアースとポリメット・マイニングで最高財務責任者を務めた。カザフスタン事業の最高財務責任者にはPwCで20年超の経験を持つアディル・アメルハノフ氏が就いている。
グループはこのほか、カザフスタン国内でKaz Critical Minerals LLPを通じて東カザフスタンの探鉱ライセンスを保有している。同社によれば、これは米国企業として初めてカザフスタンで取得した重要鉱物・レアアースの鉱区であり、対象はレアアース、リチウム、タンタル、ベリリウム、ニオブ、セシウム、スズなど13鉱種にわたる。
ナスダック上場企業との統合
2026年4月30日、ケイマン諸島籍でナスダックに上場するスカイライン・ビルダーズ・グループ・ホールディングは、コーブ・カズ・キャピタル・グループおよびKaz Resources LLCと取引契約を結んだと米証券取引委員会に届け出た。
契約の骨格は次のとおりである。コーブ・カズ・キャピタル・グループはデラウェア州の法人へ組織変更し、社名を「Kaz Resources Inc.」に改めて存続会社(PubCo)となる。Kaz Resources LLCが保有するKaz Critical Minerals LLPは、アスタナ国際金融センター(AIFC)に新設する法人へ吸収合併される。スカイライン側は合併により消滅し、その株式は1株につきPubCoのクラスA普通株式1株へ転換される。
スカイライン・ビルダーズ・グループはすでにナスダックでの銘柄コードをKAZRに変更しており、2026年8月17日の届出では、統合の完了時期を2026年末から2027年初めと見込んでいる。統合が完了すれば、これまで非公開だったカザフスタンのタングステン事業の財務が米国の開示制度の下に入ることになる。
数字と名称の読み方
北カトパルの資源量の数字は、そのまま掛け合わせても合わない。公表されている鉱石量7,140万トンに平均品位0.231%を掛けると約16万5,000トンになるが、含有量として示されているのは14万2,000トンである。式典では品位が0.234%と示されており、発表資料の間でも数値が一致していない。差の理由は説明されていないため、資源量を引用するときは含有量(三酸化タングステン14万2,000トン)を使い、掛け算で再現しようとしないほうがよい。
ソ連期の歴史的データとJORC基準の数字も混ぜないほうがよい。タウケン・サムルクは、カザフスタンで確認されたタングステン鉱床は約12か所、埋蔵量の合計は三酸化タングステン換算で200万トン超(ソ連期の歴史的データ)としており、上部カイラクトゥイについては121万3,000トンのタングステンと34万3,500トンのモリブデンという歴史的な数字を挙げている。この「タングステン」が金属換算か三酸化物換算かは明示されていない。
「世界生産の約15%」という表現は、鉱山からの生産量に対する比率である。製錬・加工まで含めた供給量に対する比率ではない。
社名も紛らわしい。カザフスタン側の発表では「Cove Capital」と総称されることが多いが、契約主体はコーブ・カズ・キャピタル・グループ(Cove Kaz Capital Group LLC)で、その親会社がKaz Resources LLC、事業会社がセヴェルヌイ・カトパルLLPとKaz Critical Minerals LLPである。鉱床名も、上部カイラクトゥイ(Verkhneye Kairakty)とアッパー・カイラクティ(Upper Kairakty)が混在する。
参考資料
- Implementation of the Northern Katpar Project Begins in the Karaganda Region — タウケン・サムルク(2026年8月31日) ↗
- Kazakhstan Strengthens Its Position in the Global Critical Minerals Industry — タウケン・サムルク(SPAと株主間契約の署名、投資義務11億ドル) ↗
- Severniy Katpar LLP — タウケン・サムルク(合弁の持分と代表者) ↗
- Northern Katpar Tungsten-Molybdenum Ore Exploration and Production Project — タウケン・サムルク(資源量と沿革) ↗
- Kazakh-American Joint Venture to Search for Rare and Rare Earth Elements — タウケン・サムルク(アクブラク合弁) ↗
- The Company — Kaz Resources(公式サイト、経営陣と事業構成) ↗
- Our Projects — Kaz Resources(公式サイト、北カトパル・上部カイラクトゥイの概要) ↗
- Skyline Builders Group Holding Ltd. Form 425(2026年4月30日、統合契約の内容。米証券取引委員会EDGAR) ↗
- Skyline Builders Group Holding Ltd. Form 425(2026年8月17日、統合の完了見込み時期) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。誤りに気づいた方はお問い合わせください。