GUIDE · 制度・枠組み2026年9月時点

中央アジア・コーカサスの公的債務とは

8か国の政府債務について、対内債務と対外債務、保証債務を含むかという定義の違いから、各国が公表している残高とGDP比、外貨建ての比率、主な債権者、償還と利払いの負担、そして格付けとの関係までを、各国財務省・中央銀行・法令の公表資料にもとづいて整理する。

公的債務の数字は、比べる前に定義を確かめる必要がある。同じ「国の借金」という言葉が、政府だけの債務を指すこともあれば、自治体の債務や政府が保証した債務、さらには国有企業の債務まで含むこともある。中央アジア・コーカサスの8か国は公表の様式がそれぞれ違うため、単純に並べると実態を読み違える。

共通しているのは、規模がおおむね中程度にとどまることである。ジョージアの政府債務は2025年の暫定値で対GDP比34.4%、キルギスは2026年6月末で37.53%、アゼルバイジャンは2025年12月1日時点で19.5%である。いずれも先進国の水準からは低い。ただし低いことが安全を意味するとは限らない。外貨建ての比率が高ければ、為替の変動がそのまま返済負担に効く。

もう一つの特徴は、債権者に多国間の開発金融機関が多いことである。世界銀行グループ、アジア開発銀行、欧州投資銀行、欧州復興開発銀行、イスラム開発銀行といった機関の融資は、期間が長く金利が低い。その一方で、キルギスのように中国輸出入銀行が最大の債権者になっている国や、ユーロ債市場から資金を取る国もあり、条件は資金源で大きく変わる。

以下では、定義の違い、各国の残高と構成、外貨と債権者の内訳、償還と利払いの負担、法定の上限、そして数字を比べるときの注意点を整理する。

ジョージアの政府債務対GDP比34.4%(2025年、暫定値)。2024年は35.7%、2020年は59.6%(財務省の主要指標)
同・内訳(2025年12月時点)対外67.4%、対内32.6%。対外の債権者はアジア開発銀行69億ラリ、国際復興開発銀行50億9,000万ラリ、欧州投資銀行32億6,000万ラリ、フランス23億5,000万ラリ、ドイツ15億6,000万ラリ、ユーロ債13億5,000万ラリなど
同・対内国債(中長期)110億9,000万ラリ、割引国債3億4,000万ラリ、政府債券1億5,000万ラリ、予算機関1億3,000万ラリ
アルメニアの国家債務5兆1,639億ドラム(140億8,481万ドル)。2026年7月31日時点
同・内訳政府債務5兆1,608億ドラム(対外2兆4,573億ドラム=67億223万ドル、対内2兆7,036億ドラム=73億7,411万ドル)。自治体債務30億8,000万ドラム
同・通貨構成(2026年3月31日時点)ドラム建て2兆8,644億ドラム、外貨建て2兆4,472億ドラム。外貨の内訳は米ドル1兆4,280億、ユーロ6,286億、SDR3,442億、円410億、人民元51億、ディルハム4億
キルギスの国家債務8,830億5,940万ソム(100億9,788万ドル)。2026年6月30日時点、2026年の見込みGDP比37.53%
同・内訳対内4,269億9,491万ソム(GDP比18.15%)、対外4,560億6,449万ソム(同19.38%)。2025年末の対GDP比は39.5%(暫定)
同・対外の債権者中国輸出入銀行14億1,416万ドル(対外の27.1%)、国際開発協会9億3,980万ドル(18.0%)、アジア開発銀行8億6,783万ドル(16.6%)、ユーロ債7億ドル(13.4%)、ユーラシア開発銀行2億5,052万ドル、イスラム開発銀行2億565万ドル
アゼルバイジャンの国家債務252億7,270万マナト。2025年12月1日時点、2025年の見込みGDP比19.5%
同・内訳対内170億7,750万マナト(67.6%、2025年の見込みGDP比13.2%)、対外81億9,520万マナト(32.4%、48億2,070万ドル相当)
同・対内の中身国債等の残高80億1,800万マナト。残る90億5,950万マナトはアゼルバイジャン国際銀行の健全化と不良資産処理のために発行された政府保証証券について政府が引き受けた債務
同・対外の構成固定金利51.1%、変動金利48.9%。通貨は米ドル85.7%、ユーロ6.3%、SDR3.3%、円3.1%、その他1.6%。返済期限は5年以内58.6%、5〜10年35.9%、10年超5.5%
タジキスタンの対外債務28億8,100万ドル。2026年7月1日時点の財務省の暫定値。うち直接の国家債務27億5,870万ドル、政府保証債務1億2,230万ドル
ウズベキスタンの一般政府の対外負債365億9,300万ドル。2025年12月末時点の国際投資ポジション(債務証券62億9,040万ドル、借入303億260万ドル)
カザフスタンの政府債務の上限39兆3,024億テンゲ(2026年12月31日時点)。2026年の国家保証の上限は4兆テンゲ、輸出支援保証は2,500億テンゲ、地方執行機関の債務の上限は7兆1,751億テンゲ
同・債務費共和国予算の「政府債務の債務費」(利払いを中心とする維持費用)は3兆4,712億テンゲ(2026年)。同年の支出総額26兆2,753億テンゲの13.2%にあたる
トルクメニスタン政府債務の残高は公表されていない

何を「公的債務」と呼ぶか

最も狭いのは政府債務である。中央政府が自ら負う借入と発行済みの国債の残高を指す。ここに自治体の債務を加えたものを国家債務と呼ぶ国がある。アルメニア財務省の月次の統計は、この二つを分けて示している。2026年7月31日時点の国家債務は5兆1,639億ドラム、そのうち政府債務が5兆1,608億ドラムで、自治体の債務は30億8,000万ドラムにすぎない。自治体分の内訳を見ると、そのほぼ全額が欧州投資銀行によるエレバンのエネルギー効率化事業の借入である。地方の債務市場が事実上存在しないことが、この数字から読み取れる。

さらに外側に、政府が保証した債務がある。借り手は国有企業などで、返済できなくなったときに政府が肩代わりする。タジキスタン財務省の対外債務の集計は、2026年7月1日時点の総額28億8,100万ドルを、直接の国家債務27億5,870万ドルと政府保証債務1億2,230万ドルに分けて示している。保証分を含めるかどうかで数字は4%ほど動く。

国有企業や政府系ファンドの債務を含める「広義の公共部門」という概念もある。カザフスタンの2026年共和国予算法は、政府債務の上限とは別に、準国家部門の対外債務の上限を15兆706億テンゲと定めている。政府債務の上限39兆3,024億テンゲと比べれば4割弱の規模であり、財政の全体像を見るときに無視できない。

対内債務と対外債務

対内・対外の区分には二つの流儀がある。一つは通貨で分ける方法、もう一つは債権者が居住者か非居住者かで分ける方法である。アルメニア財務省は後者を採り、非居住者が保有する国債は外貨建てでなくても対外債務に分類している。2026年7月31日時点で、非居住者が保有する国庫債券は3,417億ドラム、非居住者が保有する外貨建て国債は5,271億ドラムだった。

通貨の構成は別に公表される。同省の2026年3月31日時点の内訳では、ドラム建てが2兆8,644億ドラム、外貨建てが2兆4,472億ドラムで、外貨のうち米ドルが1兆4,280億ドラム、ユーロが6,286億ドラム、国際通貨基金の特別引出権(SDR)が3,442億ドラム、円が410億ドラム、人民元が51億ドラムだった。円建ての債務が残っているのは、日本の円借款によるものである。

ジョージアでは対外の比率が下がり続けている。財務省の主要指標によれば、政府債務に占める対外の割合は2015年の82.7%から2025年の67.4%へ下がり、対内の割合は17.3%から32.6%へ上がった。国内の国債市場が育ったことが背景にあり、為替の変動に対する耐性という意味では改善である。

誰が貸しているか

ジョージア財務省が公表する2025年12月時点の債務ポートフォリオでは、対外の債権者はアジア開発銀行が69億ラリで最大、次いで国際復興開発銀行50億9,000万ラリ、欧州投資銀行32億6,000万ラリ、国際開発協会11億ラリ、アジアインフラ投資銀行6億5,000万ラリ、欧州復興開発銀行6億2,000万ラリ、欧州連合4億2,000万ラリ、国際通貨基金4億1,000万ラリである。二国間ではフランス23億5,000万ラリ、ドイツ15億6,000万ラリ、日本3億ラリ。ユーロ債は13億5,000万ラリだった。多国間機関が圧倒的に多い構成である。

キルギスは対照的である。財務省の2026年6月30日時点の債務構成によれば、対外債務の最大の債権者は中国輸出入銀行で14億1,416万ドル、対外債務の27.1%を占める。次いで国際開発協会9億3,980万ドル(18.0%)、アジア開発銀行8億6,783万ドル(16.6%)、ユーロ債7億ドル(13.4%)、ユーラシア開発銀行の下のユーラシア安定発展基金2億5,052万ドル、イスラム開発銀行2億565万ドル、国際通貨基金1億4,989万ドル、日本の国際協力機構1億2,653万ドルと続く。一国の政府機関が対外債務の4分の1超を握る構造は、返済条件の再交渉が要るときの選択肢を狭める。

アゼルバイジャンの対内債務は、別の意味で特徴的である。財務省の説明では、2025年12月1日時点の対内債務170億7,750万マナトのうち、国債等の残高は80億1,800万マナトにとどまる。残る90億5,950万マナトは、アゼルバイジャン国際銀行の健全化と不良資産の処理のために発行された政府保証証券について政府が引き受けた債務である。つまり同国の対内債務の半分以上は、財政赤字の穴埋めではなく銀行の救済に由来する。

償還と利払いの負担

債務の重さは残高だけでは測れない。毎年いくら返し、いくら利息を払うかが予算を圧迫する。カザフスタンの2026年共和国予算法では、財務省の所管に「政府債務の債務費」という費目があり、3兆4,712億テンゲが計上されている。利払いを中心とする債務の維持費用で、同年の共和国予算の支出総額26兆2,753億テンゲの13.2%にあたる。元本の償還はこの費目とは別に扱われる。

アゼルバイジャン財務省によれば、2025年は12月1日までに国家債務の返済と利払いに17億3,090万マナトが使われ、うち対外が12億1,060万マナト、対内が5億2,030万マナトだった。2026年の計画は対外14億マナト(元本9億4,000万、利息4億6,000万)、対内10億5,760万マナト(元本1億3,700万、利息9億2,060万)である。対内では利息が元本の6倍を超える。残高の大きい対内債務が、当面は借り換えを前提に回っていることを示している。

満期の構成も重要である。アゼルバイジャンの対外債務は、契約上58.6%が5年以内、35.9%が5年から10年、5.5%が10年超に返済期限を迎える。金利は固定51.1%、変動48.9%で、変動部分は国際金利の動きに直接さらされる。アルメニアの政府債務は、2026年3月31日時点で発行時の期間別に短期1,232億ドラム、中期1兆863億ドラム、長期4兆1,021億ドラムであり、金利は固定4兆5,929億ドラム、変動7,187億ドラムだった。

法律で決まる上限

多くの国が、毎年の予算法で借入の上限を定める。カザフスタンの2026年共和国予算法は、2026年12月31日時点の政府債務の上限を39兆3,024億テンゲ、同年の国家保証の上限を4兆テンゲ、輸出支援に係る保証の上限を2,500億テンゲ、地方執行機関の債務の上限を7兆1,751億テンゲ、準国家部門の対外債務の上限を15兆706億テンゲと定めた。これとは別に、国が第三者の債務について負う保証の枠は、2026年については適用しないとされた。

ウズベキスタンの2026年国家予算法は、残高ではなく年間の新規調達に上限を置く方式である。同法第10条は、政府名義および国の保証による対外借入について、その年に新たに署名する契約の総額を50億ドル(うち25億ドルは財政赤字の補填を含む予算支援、25億ドルは投資事業)とし、国名義で発行する国債の純増額を30兆スム、国が債務を負う形の官民連携事業の新規案件の総額を65億ドルと定めた。連結予算の赤字の上限はGDP比3%である。

アゼルバイジャンの2026年の枠は、対外の国家借入が60億マナト、対内が20億マナト、年間に供与する国家保証が30億マナトである。同国はこの枠を、上水道や地下鉄網の拡張といった大型事業の資金手当てを見込んで設定したと説明している。

格付けとの関係

債務の水準は格付けを決める要素の一つだが、唯一の要素ではない。外貨準備、政府系ファンドの資産、経常収支、財政の柔軟性が同時に評価される。資源収入を政府系ファンドに積み上げてきた国では、政府債務の総額が大きくても、ファンドの資産を差し引いた純債務は小さい、あるいは純資産になる。アゼルバイジャンとカザフスタンがこの類型にあたる。

格付けの見直しは債務の統計とは別の時間軸で動く。アルメニア財務省は2026年7月29日、ムーディーズが同国のソブリン格付けの見通しを「安定的」から「ポジティブ」へ変更し、長期の自国通貨建ておよび外貨建て発行体格付けをBa3で据え置いたと公表した。

一方、公表の乏しさそのものが評価の制約になる。トルクメニスタンは政府債務の残高を公表しておらず、国際的な格付けも付いていない。数字が取れないことは、投資家の側から見れば不確実性そのものである。

数字の読み方

第一に、範囲を確かめる。政府債務、国家債務(自治体を含む)、保証を含む債務、準国家部門を含む債務は別の数字である。アルメニアのように自治体分がごく小さい国では差はわずかだが、カザフスタンのように準国家部門の対外債務の上限が政府債務の上限の4割弱に達する国では、範囲の違いが結論を変える。統計の作成主体によっても範囲は変わる。ウズベキスタンについてここに挙げた365億9,300万ドルは、中央銀行の国際投資ポジションにおける一般政府部門の対外負債であり、財務当局が用いる国家債務の定義とは一致しない。

第二に、基準日をそろえる。ここに挙げた数字の基準日は、ジョージアが2025年12月、アルメニアが2026年7月31日、キルギスが2026年6月30日、アゼルバイジャンが2025年12月1日、タジキスタンが2026年7月1日、ウズベキスタンが2025年12月末である。為替が動けば外貨建て部分のドル換算も動くので、四半期がずれるだけで順位が入れ替わることがある。

第三に、分母のGDPが実績か見込みかを見る。キルギス財務省が示す2026年6月30日時点の37.53%は、2026年7月3日の内閣決定第458号による2026年の見込みGDP(2兆3,526億7,870万ソム)を分母にしている。実績が見込みを下回れば比率は上がる。アゼルバイジャンの19.5%も2025年の予測GDPに対する比率である。

第四に、対外債務と外貨建て債務を区別する。非居住者が保有する自国通貨建ての国債は、居住性で見れば対外債務だが、為替の危険はない。逆に居住者が保有する外貨建て国債は対内債務だが、為替の危険はある。

第五に、単位と通貨を確認する。ここに挙げた各国の公表はラリ、ドラム、ソム、マナト、テンゲ、ドルが混在しており、換算に使われた為替レートも公表日ごとに違う。キルギス財務省の2026年6月30日の資料は1ドル87.45ソムで換算している。

参考資料

この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。

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