GUIDE · 経済・金融2026年9月時点

中央アジアの油糧種子と食用油とは

カザフスタンを中心に伸びている油糧種子と食用油について、穀物から油糧作物への作付の振替、搾油能力の増設、ひまわりの種にかかる輸出関税という原料囲い込みの手段、ウズベキスタンと中国を中心とする輸出先、綿実油から代替油糧作物へ移るウズベキスタンの転換、そして取水枠が作付を縛る関係を、各国政府の公表資料にもとづいて整理する。

油糧種子は、この数年で中央アジアの農業に起きた最も大きな構成変化である。中心はカザフスタンで、同国の油糧作物の作付面積は2025年に390万ヘクタールへ、前年比37.7%増えた。収穫量は480万トンに達し、前年の330万トンから5割近く増えている。

背景は単純である。単位面積あたりの収益が小麦より高く、輸出先が近くにあり、加工した油として売れば付加価値が残る。小麦の作付が水と価格の両面で見直されるなかで、農家と政府の双方が油糧作物へ動いた。

油糧種子の主役はひまわりで、これに亜麻、菜種、大豆、紅花が続く。搾油して植物油にすると輸出単価が上がり、搾りかす(粕)は飼料として別の市場を持つ。カザフスタンはひまわり油の輸出で世界8位、ひまわり粕の欧州連合向け輸出では上位3位に入ると自ら説明している。

ウズベキスタンの事情は異なる。同国の食用油は伝統的に綿実油で、綿花の副産物として供給されてきた。綿花の作付が減り、綿産業がクラスターへ再編されるなかで、油脂産業の原料基盤が細り、大豆やひまわりへの転換と種子の輸入で埋める政策が採られている。

カザフスタンの油糧作物の作付(2025年)390万ヘクタール。前年比37.7%増、面積で110万ヘクタール増。うちひまわりは38.4%増、49万1,100ヘクタール増(農業省)
2026年の計画油糧作物の作付面積を400万ヘクタール超に。総作付面積2,380万ヘクタールのうち、飼料作物は330万ヘクタール(カザフスタン政府、2026年5月12日)
収穫(2025年)油糧作物480万トン(2024年は330万トン)。うちひまわり230万トン(同180万トン)。地方行政の速報値(農業省)
収穫(政府発表の確定に近い値)2025年の油糧作物は490万トンで前年比48%増。ひまわりは39%増、亜麻は77%増(農業相、2026年2月17日)
主産地北カザフスタン州、コスタナイ州、パブロダール州、アクモラ州、東カザフスタン州、アバイ州
搾油能力年500万トン超(農業省)。5.2百万トン超とする集計もある
植物油の生産(2025年)88万8,800トンで前年比17.4%増(2024年は75万7,100トン)。うちひまわり油は75万7,200トンで17.5%増(同)
植物油の輸出先(2025年1〜11月)ウズベキスタン46%、中国33.7%、タジキスタン13.1%、アフガニスタン4.3%、トルクメニスタン1.8%。輸出額は前年同期比34.6%増(同)
世界での位置ひまわり油の輸出で世界8位。ひまわり粕の欧州連合向け輸出では上位3位に入る(同)
ひまわりの種の輸出関税20%、ただし1トンあたり100ユーロを下回らない。適用は2023年2月1日から、期限の定めなし(対象はHS1206 00。国民経済相令第81号の別表。同令は2026年7月29日の貿易統合相令第228号で差し替えられた)
中国向けの制度油糧種子の加工品の輸出について、衛生・植物検疫要件に関する議定書を締結済み(農業省)
加工企業への支援運転資金への優遇融資と、付加価値税率の80%軽減(同)
加工への投資計画今後3年で13件・940億テンゲの搾油事業(農業相、2026年2月17日)
ウズベキスタンの制度転換2018年1月19日の大統領決定PP-3484号が油脂産業の加速的発展の行程表を承認。大豆・ひまわりなど代替油糧作物の作付拡大、油糧種子の輸入、綿実の油分を高める育種を柱とする
同決定の具体策各搾油企業に200ヘクタール以上の肥沃な灌漑農地を割り当て、綿実の抽出油は取引所を通じて国内の加工企業へ販売。輸入原料を用いた植物油の生産者には期限付きで付加価値税を免除
作付と水の関係カザフスタンの2026年の作付構成は、初めて実際の取水枠に合わせて承認された。稲の作付は2万200ヘクタール減、綿花では点滴灌漑の面積が2万9,800ヘクタール増(カザフスタン政府、2026年5月12日)
加工品輸出の全体像カザフスタンの農産加工品の輸出は2025年1〜11月で32億ドル、前年同期比33.8%増。農産物輸出に占める加工品の比率は52%(農業相、2026年2月17日)

なぜ油糧種子が伸びているのか

カザフスタンの農業政策は、長く「小麦をどれだけ売るか」という問題だった。作付の多角化はそれを崩す方針で、収益性が高く世界市場で需要のある作物へ移すことが目標に据えられている。油糧作物はその筆頭に置かれた。

数字の伸び方は急である。2025年の油糧作物の作付は390万ヘクタールで前年比37.7%増、面積では110万ヘクタール増えた。ひまわりだけで38.4%、49万1,100ヘクタールの増加である。収穫は480万トン(うちひまわり230万トン)で、前年の330万トン(同180万トン)を大きく上回った。2026年の計画では作付面積は400万ヘクタールを超える。

同じ期間に穀物の作付は減っている。2026年の作付構成では穀物が12万7,000ヘクタール減らされ、その一方で油糧作物と飼料作物が増えた。カザフスタンでは2026年に小麦の作付が前年より87万5,000ヘクタール減っており、多角化は小麦からの振替として進んでいる。

油糧作物は北部の穀作地帯と親和性が高い。主産地は北カザフスタン州、コスタナイ州、パブロダール州、アクモラ州、東カザフスタン州、アバイ州で、いずれも小麦の主産地と重なる。輪作の一部として組み込みやすいことが、切り替えの速さの一因になっている。

搾油能力と、種子を国内に留める仕組み

収穫が増えても、種子のまま輸出すれば付加価値は国外に出る。カザフスタンの搾油能力は年500万トン超で、2025年の収穫480万トンをやや上回る水準にある。稼働率を確保するには、国内の搾油工場に原料が回る必要がある。

そのための手段が輸出関税である。ひまわりの種(HS1206 00)には20%、ただし1トンあたり100ユーロを下回らない輸出関税がかかる。適用は2023年2月1日からで、期限は「恒久」と記されている。国民経済相令第81号の別表に定められたもので、同令は2026年7月29日の貿易統合相令第228号によって差し替えられた。

種子に関税をかけ、油には関税をかけないという設計は、加工段階を国内に囲い込む典型的な手法である。これに加えて、加工企業には運転資金の優遇融資と付加価値税率の80%軽減が用意されている。今後3年で13件・940億テンゲの搾油事業が計画されている。

成果は植物油の生産に表れている。2025年の植物油生産は88万8,800トンで前年比17.4%増、うちひまわり油は75万7,200トンで17.5%増だった。ただし収穫の伸び(前年比45%程度)に比べると加工の伸びは緩やかで、増えた種子の一部は在庫か輸出に回っている計算になる。

輸出先 — 域内と中国

カザフスタンの植物油の輸出先は、2025年1〜11月の実績でウズベキスタン46%、中国33.7%、タジキスタン13.1%、アフガニスタン4.3%、トルクメニスタン1.8%だった。輸出額は前年同期比34.6%増である。上位2市場で8割を占める。

ウズベキスタンが最大の買い手であることには構造的な理由がある。人口が域内で最も多く、食用油の需要が大きい一方、綿実油の供給が細っているためである。輸送距離が短く、鉄道で直接つながっている点も効く。

中国向けは、ひまわり油に加えて菜種油と大豆油が伸びている。制度面では、油糧種子の加工品の輸出について衛生・植物検疫要件に関する議定書が締結されており、これが数量を伸ばす前提になっている。中国の食用油市場は輸入依存が大きく、陸路で届く供給源としてカザフスタンの位置は有利である。

ひまわり粕は別の経路をたどる。搾油の副産物である粕は蛋白飼料として取引され、カザフスタンは欧州連合向けの輸出で上位3位に入るとされる。油と粕で仕向地が違うことは、搾油事業の採算を考えるうえで重要である。

ウズベキスタン — 綿実油からの転換

ウズベキスタンの油脂産業は、綿花産業の付属物として形成された。綿実を搾って食用油とし、粕と殻を飼料に回す構造である。綿花の作付が縮小し、綿産業が民間のクラスターへ移されるなかで、この原料基盤は細った。

2018年1月19日の大統領決定PP-3484号は、油脂産業の加速的発展の行程表を承認した。文書は、原料基盤の限界、とくに代替油糧作物の利用不足によって既存の搾油能力を十分に稼働させられず、市場の需要を満たせていないと診断している。対策は、大豆やひまわりなど代替油糧作物の作付拡大、油糧種子の輸入、そして綿実の油分を高める育種の強化である。

具体策として、各搾油企業に200ヘクタール以上の肥沃な灌漑農地を割り当てること、綿実の抽出油を取引所経由で国内の加工能力を持つ企業へ販売すること、輸入原料を用いた植物油の生産者に期限付きで付加価値税を免除することなどが定められた。綿実の搬送車両に位置情報装置を付け、搾油工場に原料の受け入れと処理を追跡する自動システムを備える措置も含まれている。

転換は途上にある。同国は現在も食用油の大きな輸入国であり、カザフスタンの植物油輸出の46%を引き受けている。国内の作付転換と輸入原料の搾油、そして輸入油の三つが並存する形になっている。

水と作付の制約

油糧作物への転換は、水の制約とも結びついている。カザフスタンの2026年の作付構成は、初めて実際の取水枠に合わせて承認された。水を多く使う稲の作付は2万200ヘクタール減らされ、綿花では点滴灌漑の面積を2万9,800ヘクタール増やして従来の灌漑方法を1万2,000ヘクタール減らしている。

ひまわりと亜麻は北部の天水地帯で作られるため、南部の灌漑水を直接には奪わない。北部の作付を油糧作物に振り替えることは、南部の水の逼迫と切り離して進められる。逆に大豆は水を要する作物で、南部で拡大する場合には灌漑の枠と競合する。

ウズベキスタンでは事情が逆になる。同国の農地はほぼ全面が灌漑地であり、代替油糧作物の作付を増やすことは、その分の水を確保することを意味する。搾油企業に灌漑農地を割り当てる方式は、水の配分そのものに触れる政策である。

油糧作物は肥料と農薬の投入量も穀物と異なる。カザフスタンの2026年の鉱物肥料の使用計画は230万トンで、2年前の実績の3倍にあたる180万トンからさらに引き上げられた。単収を上げる方向の投入増は、作物の切り替えと同時に進んでいる。

投資の観点

投資の対象は、川上から順に三つに分かれる。第一は搾油工場そのもので、今後3年で13件・940億テンゲの計画が示されている。第二は種子と資材の供給で、油糧作物向けの品種と播種・収穫の機械が要る。第三は物流で、油は液体貨物としてタンクコンテナか専用の車両を必要とし、穀物とは別の設備が要る。

事業の採算を左右するのは、原料価格と油の価格の差(クラッシュマージン)である。輸出関税は原料の国内価格を下げ、この差を広げる方向に働く。一方で生産者から見れば手取りが減るため、作付の増加を抑える方向にも働く。二つの効果のどちらが強く出るかは、その年の収穫と国際価格に左右される。

域内需要の伸びしろは大きい。ウズベキスタンは人口が増え続けており、タジキスタンとアフガニスタンも食用油の輸入国である。域内向けの輸送距離が短いことは、海上輸送に依存する他の産地に対する優位である。

一方で、ロシアとウクライナという世界最大級のひまわり油産地が隣接している点は競争条件として無視できない。域内市場でも中国市場でも、この二か国の輸出動向が価格の前提になる。

数字の読み方

同じ2025年の収穫について、480万トンと490万トンという二つの数字が政府の資料に並ぶ。前者は農業省が地方行政の速報値として示したもの、後者は農業相が閣議で報告した値である。速報と確定で1桁台の差が出るのは珍しくない。どちらの出所かを添えて使うのが安全である。

「油糧作物」という区分には、ひまわり、亜麻、菜種、大豆、紅花などが含まれる。ひまわりだけの数字と全体の数字を取り違えると、規模が倍近く違う。2025年の場合、油糧作物全体が480万トン、ひまわりが230万トンである。

「植物油」と「ひまわり油」も別である。2025年の植物油生産88万8,800トンのうち、ひまわり油は75万7,200トンで、残りは菜種油、大豆油、亜麻仁油などが占める。輸出の統計も同様に、品目のくくり方で数字が変わる。

作付面積の集計は時点によって動く。播種計画、実播種、収穫面積は同じ年でも一致しない。天候による播き直しや、播いたが収穫に至らなかった面積があるためである。カザフスタンでは油糧作物の作付について2025年390万ヘクタール、2026年計画400万ヘクタール超という数字が示されているが、より広い集計では500万ヘクタール超とする報道もあり、区分の取り方が異なる可能性がある。政府資料の区分を確かめて使う必要がある。

輸出の比率は金額か数量かで変わる。植物油の輸出先の構成比(ウズベキスタン46%、中国33.7%など)は総量に対する比率として示されているが、油種によって単価が違うため、金額で見た構成とは一致しないことがある。

参考資料

この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。

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