肥料は、この地域では農業の投入財であると同時に、エネルギーの加工品であり、輸出商品でもある。三つの顔をどれから見るかで、話の中身が変わる。
窒素肥料は天然ガスの製品である。アンモニアを合成するのに大量のガスを使うため、ガスが安い国では窒素肥料が安く作れる。アゼルバイジャンのSOCARカルバミド工場は年4億3,500万立方メートルの天然ガスを原料に年65万〜66万トンの尿素を作り、その7割超を輸出する。ウズベキスタンとトルクメニスタンも同じ論理で窒素肥料の生産国になった。
リン酸肥料はリン鉱石、カリ肥料はカリ塩を原料とする。カザフスタンはリン酸肥料の産業を古くから持つ一方、窒素の生産能力が小さく、カリはまったく作っていない。確認埋蔵量が66億トン超あるのに国内需要の全量を輸入している状態で、これを埋める大型事業が2030年をめどに動いている。
需要の側も動いている。カザフスタンの鉱物肥料の使用量は2023年の67万9,000トンから2025年の180万トンへ2年で3倍になり、2026年の計画は230万トンである。それでも1ヘクタールあたりの施肥量は25〜35キログラムで、世界平均の150〜160キログラムには遠い。国が肥料代の最大6割を補填しているのは、この差を埋めるためである。
| 三つの区分 | 鉱物肥料は窒素・リン酸・カリの3群に分かれる。窒素肥料は天然ガスからアンモニアを合成して作り、リン酸肥料はリン鉱石、カリ肥料はカリ塩を原料とする |
|---|---|
| ウズベキスタンの化学工業 | 年産は化学製品全体で800万トン超、うち鉱物肥料が300万トン超。品目はアンモニア、硝酸アンモニウム、尿素、アンモフォス、過リン酸石灰、硫酸アンモニウム、NPK肥料など(ウズキミョサノアトの公表、2026年9月時点) |
| ウズベキスタンの主な生産者 | ナヴォイアゾト、マクサム・チルチク、アンモフォス・マクサム、インドラマ傘下のフェルガナアゾト、アジアン・ケミカル・グループ傘下のデフカナバード・カリ工場(同社の一覧) |
| 工場の沿革 | チルチク電気化学コンビナート(現マクサム・チルチク)1940年、フェルガナ窒素肥料工場(現フェルガナアゾト)1962年、ナヴォイ化学コンビナート(現ナヴォイアゾト)1964年、アルマリク化学工場(現アンモフォス)1969年 |
| アゼルバイジャンの尿素工場 | SOCARカルバミド工場(スムガイト)は2019年1月16日稼働。年産65万〜66万トン、原料は天然ガス年4億3,500万立方メートル。生産の70%超を輸出(SOCAR) |
| 同工場の付加価値 | 同量の天然ガスを当時の価格で輸出すれば約8,000万ドル、尿素にすれば1億5,000万〜1億6,000万ドルになるとアリエフ大統領が開所式で説明(2019年1月16日) |
| トルクメニスタンの尿素工場 | ガラボガズカルバミドは2018年9月稼働。日産で合成アンモニア2,000トン、尿素3,500トン。窒素分46.2%。建設はトルクメンヒミヤと三菱商事(日本)およびGap Insaat(トルコ)の企業連合が担った(トルクメニスタン政府紙) |
| トルクメニスタンの尿素輸出 | 2026年8月19日の国家商品原料取引所で、トルクメンヒミヤが「B」種尿素をアフガニスタン、トルコ、アラブ首長国連邦の事業者に売却。同日の外貨建て取引の合計は4,459万ドル(取引所の日次公表) |
| カザフスタンの施肥量 | 2023年の67万9,000トンから2025年に180万トンへ、2年で3倍。2026年の計画は230万トン。8月18日時点で200万トン分の供給契約が結ばれ、うち190万トン(年間計画の83%)が出荷済み(カザフスタン政府) |
| カザフスタンの施肥密度 | 1ヘクタールあたり25〜35キログラム。世界平均は150〜160キログラム。2026年の計画230万トンは科学的に必要とされる量の最大73%にあたる(国民経済省、2026年8月18日) |
| カザフスタンの補助 | 国が肥料代の最大60%を補填する(同) |
| カザフスタンのカリ | 生産はゼロ。確認埋蔵量は66億トン超のカリ塩がありながら、国内需要の約1万4,000トンは全量を輸入で賄う(同) |
| カザク・カリウム事業 | サティモラ鉱床で2030年までに年150万トンの生産を計画。国内需要が30万トンに増えても大半は輸出に回る(同) |
| カズアゾト・プライム | マンギスタウ州の複合施設は2030年稼働で年産アンモニア66万トン、尿素57万7,500トン、硝酸アンモニウム50万トン。稼働すれば国内のアンモニア生産能力は3倍以上になり、工業規模の尿素生産は同国初。常用雇用約700人(同) |
| 同事業の輸出想定 | 尿素約47万トン、硝酸アンモニウム9万8,000トン。輸送はカスピ海横断国際輸送ルートの利用が見込まれる(同) |
| 硝酸アンモニウムの価格 | 2025年7〜9月に15.2%上昇。7月1日に欧州連合がロシア産の窒素肥料へ新たな関税を課したことが理由(ゴールト・アンド・タガート) |
三つの肥料と、それぞれの原料
鉱物肥料は含まれる養分によって窒素、リン酸、カリの3群に分かれる。窒素肥料の代表は尿素と硝酸アンモニウム(硝安)で、いずれも中間製品のアンモニアから作る。アンモニアは天然ガスから水素を取り出し、空気中の窒素と合成して得る。したがって窒素肥料の費用構造は、そのままガスの価格に連動する。
リン酸肥料はリン鉱石を硫酸で処理して作る。カザフスタンはカラタウのリン鉱床を基盤にリン酸肥料の産業を持ち、ウズベキスタンもアンモフォス(リン安)を生産する。カリ肥料はカリ塩の鉱床がなければ作れない。中央アジアではウズベキスタンのデフカナバード・カリ工場が域内で数少ないカリ肥料の生産設備である。
尿素の窒素含有率は46%前後で、窒素肥料のなかで最も高い。SOCARは自社の尿素を窒素分46.3%、トルクメニスタン政府紙はガラボガズカルバミドの製品を46.2%と説明している。輸送しやすく、水に溶けやすく、火災・爆発の危険がないため、輸出商品としても扱いやすい。
窒素肥料はガスの製品である
ガスを肥料に変えることの経済的な意味を、最も明確に説明したのはアゼルバイジャンのアリエフ大統領である。2019年1月16日のSOCARカルバミド工場の開所式で、同大統領は、この工場が年4億3,500万立方メートルの天然ガスを使うこと、同量のガスを当時の価格で輸出すれば約8,000万ドルの収入になること、それを尿素にすれば1億5,000万〜1億6,000万ドルの製品になることを述べ、「実質的に効率を倍にした」と説明した。
同工場はスムガイトにあり、サムスン・エンジニアリング(韓国)が設計・建設し、アンモニアはハルドール・トプソー(デンマーク)、尿素はスタミカーボン(オランダ)の技術を使う。当初は国家予算で、その後は韓国輸出入銀行、ソシエテ・ジェネラル、ドイツ銀行、ウニクレディトからの5億ユーロの国家保証付き融資で資金を賄った。稼働前のアゼルバイジャンは窒素肥料を輸入していたが、稼働後は国内需要を満たしたうえで生産の70%超を輸出している。
トルクメニスタンのガラボガズカルバミドは2018年9月に稼働した。トルクメニスタン政府紙によれば、日産で合成アンモニア2,000トン、尿素3,500トンを生産する設計で、ガスタービン発電機と海水淡水化設備を備える。製品は3メートル幅のコンベヤーで岸壁まで運ばれ、船で輸出される。建設はトルクメンヒミヤと三菱商事(日本)およびGap Insaat(トルコ)の企業連合が担当し、1,000人を超える雇用が生まれたとされる。
同国の輸出は国家商品原料取引所を通じて行われ、日ごとに結果が公表される。2026年8月19日には、トルクメンヒミヤが「B」種尿素をアフガニスタン、トルコ、アラブ首長国連邦の事業者に売却し、その日の外貨建て取引の合計は4,459万ドルに達した。同じ週の外貨建て取引全体の96.1%をこの1日が占めており、尿素1品目が週の輸出額を左右する構造になっている。
ウズベキスタンの肥料産業
ウズベキスタンの化学工業は、ソビエト期に綿花の増産を支えるために作られた。持株会社ウズキミョサノアトの説明によれば、チルチク電気化学コンビナート(現マクサム・チルチク)が1940年、フェルガナ窒素肥料工場(現フェルガナアゾト)が1962年、ナヴォイ化学コンビナート(現ナヴォイアゾト)が1964年、アルマリク化学工場(現アンモフォス)が1969年に操業を始めた。灌漑農業と肥料工業が同じ計画のなかで組み立てられている。
現在の規模は、化学製品全体で年産800万トン超、うち鉱物肥料が300万トン超である。品目はアンモニア、硝酸アンモニウム、尿素、アンモフォス、過リン酸石灰、硫酸アンモニウム、NPK肥料、硝酸、硫酸などに及ぶ。主要な肥料生産者としてウズキミョサノアトが挙げるのは、ナヴォイアゾト、マクサム・チルチク、アンモフォス・マクサム、インドラマ傘下のフェルガナアゾト、アジアン・ケミカル・グループ傘下のデフカナバード・カリ工場、NCVインターナショナル傘下のクングラード・ソーダ工場である。有力な工場が外資と民間の手に移っていることが分かる。
輸出は単一の代理店ウズキミョインペクスが担う。輸出品目は40種類、仕向け地は40か国を超え、連雲港(中国)、カラチ(パキスタン)、ポチとバトゥミ(ジョージア)、クライペダ(リトアニア)などの港を使う。取引先にはトルクメンヒミヤも含まれる。2020年からタジキスタン、カザフスタン、ウクライナに「ウズキミョインペクス通商館」を置いた。
同社は環境面の取り組みも公表している。リン酸肥料の生産で出る燐石膏を硫酸とセメントに変えて循環させる作業、ドイツ国際協力公社および硝酸生産由来の亜酸化窒素排出への対処を進める枠組みとの協力による亜酸化窒素の削減事業などである。窒素肥料の生産は温室効果ガスの排出源でもあり、輸出先の規制がここに及ぶ可能性がある。
カザフスタンの空白 — 窒素とカリ
カザフスタンは穀物の輸出国でありながら、その穀物に施す肥料の多くを輸入している。国民経済省が2026年8月18日に示した内容によれば、同国はリン酸肥料の産業を既に持つ一方、窒素とカリが手薄である。
カリ肥料はまったく生産していない。確認埋蔵量は66億トン超のカリ塩がありながら、国内需要の約1万4,000トンは全量を輸入で賄う。この空白を埋める事業がサティモラ鉱床のカザク・カリウムで、2030年までに年150万トンの生産を計画する。国内需要が30万トンに増えたとしても、大半は輸出に回る規模である。
窒素側の大型事業がマンギスタウ州のカズアゾト・プライムである。年産でアンモニア66万トン、尿素57万7,500トン、硝酸アンモニウム50万トンを見込み、2030年に稼働すれば国内のアンモニア生産能力は3倍以上になる。工業規模の尿素生産は同国では初めてになる。常用雇用は約700人。生産したアンモニアのうち約54万3,000トンを尿素と硝酸アンモニウムの原料に回す一貫生産の形をとり、付加価値を国内に残す設計である。輸出は尿素約47万トン、硝酸アンモニウム9万8,000トンを想定し、輸送にはカスピ海横断国際輸送ルートの利用が見込まれている。
カザフスタンでこの二つが空白だったのは、ガスの供給と価格の問題と無関係ではない。窒素肥料は大量のガスを原料に使うため、国内のガス供給が制約されている状態では大型のアンモニア設備を置きにくい。マンギスタウ州のガス田を前提にした立地はその制約を織り込んだものである。
補助金と配分
カザフスタンでは国が肥料代の最大60%を補填する。この補助は施肥量の急増と直結しており、鉱物肥料の使用量は2023年の67万9,000トンから2025年に180万トンへ2年で3倍になった。2026年の計画は230万トンで、8月18日の時点で200万トン分の供給契約が結ばれ、うち190万トン(年間計画の83%)が生産者へ出荷済みである。
肥料の購入資金は融資の側からも支えられている。春の作付と収穫の作業を早期に資金手当てするための優遇貸出制度に2026年は約7,500億テンゲが予定され、8月18日までに6,577億テンゲが実行された。5,600の農業生産者が利用し、770万ヘクタールの作付面積を対象にした。農家は種子、肥料、農薬、燃料、機械を適期に調達できるようになる。
施肥量の水準はまだ低い。1ヘクタールあたり25〜35キログラムという密度は、世界平均の150〜160キログラムの2割程度である。2026年の計画230万トンでも、科学的に必要とされる量の最大73%にとどまる。需要の伸びしろは大きいが、それは同時に、補助が続く限り需要が政策に左右されることも意味する。
ウズベキスタンでは、綿花・繊維クラスターへの支援策のなかに資材の手当てが組み込まれてきた。クラスター制度は栽培から紡績・織布・縫製までを一体で行う企業体に生産を委ねる仕組みで、生産資金と資材の供給がその機能に含まれる。肥料の配分は、こうした産業組織の枠組みのなかで決まる部分がある。
作付と輸出との関係
肥料の需要は作付構成で決まる。カザフスタンでは2026年に小麦の作付を前年より87万5,000ヘクタール減らし、油糧種子や豆類へ振り替える多角化を進めている。作物ごとに必要な養分の量と比率が違うため、作付が変われば肥料の需要構成も変わる。
綿花は肥料を多く使う作物である。ウズベキスタンは作付面積を2008年の140万ヘクタールから2020年の約100万ヘクタールへ減らしたが、単収の改善で生産量は維持している。面積あたりの投入を増やして収量を保つ方向は、肥料需要を面積の縮小ほどには減らさない。
価格は域外の政策に動かされる。2025年7〜9月に硝酸アンモニウムは15.2%上昇した。7月1日に欧州連合がロシア産の窒素肥料へ新たな関税を課したことが理由である。硝安は基礎的な窒素肥料であり、価格の上昇は域内の農業生産費に直接響く。カザフスタンとウズベキスタンはいずれも農産物の輸出を伸ばそうとしており、肥料価格は収益性を左右する要素になる。
同時に、この価格上昇は域内の肥料輸出者にとっては追い風である。ロシア産に関税がかかれば、トルクメニスタン、ウズベキスタン、アゼルバイジャンの尿素と硝安に販路が開く。輸出の制約になるのは価格ではなく物流で、黒海の港(ポチ、バトゥミ)とカスピ海横断ルートの能力が実際の出荷量を決める。
数字の読み方
第一に、肥料の量は「実物重量」と「養分換算」で大きく違う。尿素1トンに含まれる窒素は46%なので、実物重量230万トンと窒素換算230万トンでは倍以上の開きがある。国際比較で使われる1ヘクタールあたりの施肥量は養分換算であることが多く、カザフスタンの25〜35キログラムという数字と世界平均150〜160キログラムを比べる際には、同じ基準かを確かめる必要がある。
第二に、生産能力と生産量を混同しない。カズアゾト・プライムの年産66万トンや、カザク・カリウムの年150万トンは2030年に予定される設計能力であって、実績ではない。稼働時期の遅れは肥料事業では珍しくない。
第三に、原料ガスの量から製品の量を逆算するときは単位に注意する。SOCARの尿素工場は年4億3,500万立方メートルのガスで65万〜66万トンの尿素を作るので、尿素1トンあたり約660立方メートルにあたる。この比率は設備の効率で変わるため、他の工場に当てはめることはできない。
第四に、トルクメニスタンの取引所の公表は日ごとの成約額であり、数量と単価は示されない。金額が前週の20倍になったとしても、それが数量の増加によるものか価格の上昇によるものかは、この資料からは分からない。
第五に、施肥量の統計は「供給契約が結ばれた量」「出荷された量」「実際に圃場に施された量」で違う。カザフスタン政府の2026年8月18日の説明は、計画230万トン、契約200万トン、出荷190万トンと三つを書き分けている。どの段階の数字かを確かめずに前年と比べると、進捗を過大にも過小にも読み違える。
参考資料
- SOCAR Carbamide plant(アゼルバイジャン国営石油会社。稼働日、年産65万〜66万トン、原料ガス年4億3,500万立方メートル、輸出比率、2019年1月16日の大統領発言) ↗
- 「Производство」(ウズキミョサノアトの生産ページ。化学製品年産800万トン超、鉱物肥料300万トン超、品目、燐石膏の処理と亜酸化窒素削減) ↗
- 「Основные производители минеральных удобрений и других химических веществ」(同。主要な肥料生産企業の一覧) ↗
- 「История химической промышленности」(同。チルチク1940年、フェルガナ1962年、ナヴォイ1964年、アルマリク1969年) ↗
- 「Импорт и экспорт」(同。輸出代理店、輸出品目40種類、40か国超、使用する港と通商館) ↗
- Garabogazkarbamid plant – environmentally friendly production(トルクメニスタン政府紙、2018年9月17日。日産アンモニア2,000トン・尿素3,500トン、窒素分46.2%、建設の企業連合と設備) ↗
- 「Çarşenbe güni, 19-njy awgustda, birža söwdalarynda...」(トルクメニスタン国家商品原料取引所、2026年8月19日の取引結果。「B」種尿素の売却先と外貨建て合計4,459万ドル) ↗
- Kazakhstan’s Fertilizer Industry Could Strengthen Food Security and Export Potential(アスタナ・タイムズ、2026年8月19日。国民経済省が8月18日に示したカズアゾト・プライム、カザク・カリウム、施肥密度、補助率60%の内容) ↗
- 「Исполнение поручений Президента по повышению производительности в АПК」(カザフスタン政府、2026年8月18日。施肥量の推移と2026年の計画、契約量と出荷量、優遇貸出の実行額) ↗
- 「Общая посевная площадь в текущем году превысит 23,8 млн га」(カザフスタン政府、2026年5月12日。2026年の作付構成と資材) ↗
- Commodities Quarterly Outlook - 3Q25(ゴールト・アンド・タガート。硝酸アンモニウムの15.2%上昇と欧州連合の対ロシア窒素肥料関税) ↗
- 「Об утверждении Комплексного плана развития газовой отрасли Республики Казахстан на 2025 – 2029 годы」(カザフスタン政府決定 2025年6月21日 第463号。メタノール・アンモニア・合成ガスを含む炭素化学の育成方針) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。