GUIDE · 経済・金融2026年9月時点

中央アジア・コーカサスの天然ガスとは

トルクメニスタン、ウズベキスタン、カザフスタン、アゼルバイジャンの天然ガスについて、埋蔵と生産の規模、生産が伸びない一方で国内需要が膨らんだ経緯、輸出先の構成、国が決める国内価格の仕組み、ガス処理能力という隘路、そして統計を読むときの注意を、各国政府と統計機関の公表資料にもとづいて整理する。

中央アジアとコーカサスは、天然ガスを大量に持つ地域である。トルクメニスタンは世界有数の埋蔵国であり、カザフスタンは確認採掘可能埋蔵量3兆8,000億立方メートルで世界22位に位置する。ウズベキスタンとアゼルバイジャンもガスを産する。ところがこの地域の投資判断で問われるのは、埋蔵量の大きさではなく、そのガスが誰にいくらで届くかである。

構図は単純ではない。生産は横ばいか減少に向かい、国内消費はガス化の進展とともに膨らんでいる。国内価格は国が上限を決め、輸出価格との差は大きい。産出したガスの相当部分は硫黄や液分を含む随伴ガスで、そのままでは売れず、処理設備を通さなければ商品にならない。この処理能力が足りないため、埋蔵量があっても供給が増えないという状態が続く。

その結果、ガスを売る国だったはずのウズベキスタンは2023年10月からロシア産ガスの受け入れを始め、カザフスタン政府は自国の計画文書に「国内における商品ガス不足発生のリスク」という項目を立てるに至った。輸出はなお続いているが、国内需要と輸出義務のどちらを優先するかが政策の中心的な論点になっている。

この項では需給と価格を扱う。アゼルバイジャンから欧州へ至るパイプラインの構造そのものは南ガス回廊の項で扱っている。

トルクメニスタンの生産(2025年)765億2,710万立方メートル、前年比1.4%減。国家統計委員長が2026年2月13日の拡大閣議で示した数字。同国には外部からこれを検証する手立てがない
トルクメニスタンの石油(2025年)838万2,300トン、前年比1.2%増(同)
ウズベキスタンの生産(大企業分)1〜7月の実績は2024年263億立方メートル、2025年254億立方メートル、2026年216億立方メートル(国家統計委員会)
ウズベクネフチガスの生産2026年1〜8月で151億立方メートル(同社発表、2026年8月26日)
アゼルバイジャンの生産(2026年1〜7月)総生産295億6,580万立方メートルで前年同期比1.1%増。うち商品ガスは227億7,730万立方メートルで1.0%増(国家統計委員会)
カザフスタンの埋蔵量確認採掘可能埋蔵量3兆8,000億立方メートル。うち随伴ガス2兆2,000億立方メートル、フリーガス1兆6,000億立方メートル。世界22位、独立国家共同体ではロシア、トルクメニスタンに次ぐ3位(エネルギー省)
カザフスタンの商品ガス目標2029年までに資源ベースを2024年比17%増の344億立方メートルへ(2025年6月21日の政府決定第463号「ガス産業発展総合計画2025〜2029年」)
ガス処理能力の増設計画2029年までに50億立方メートル分。カシャガン10億立方メートル(2026年)、ジャナオゼン9億立方メートル(2027年)、カラチャガナク40億立方メートル(2029年)(同)
カザフスタンのガス化率2025年末で64.2%。84件の事業に1,124億テンゲを投じ、95の農村で35万5,000人が新たに接続した。2026年は40件・273億テンゲで64.3%へ引き上げ、接続人口は1,310万人になる見込み(エネルギー省)
カザフスタンの国内消費2010年の90億立方メートルから2020年に170億立方メートルへ、10年で91%増(エネルギー省)
カザフスタンの卸売上限価格2026年7月〜2027年6月は1,000立方メートルあたり2万992テンゲ(西カザフスタン州)から5万5,716テンゲ(アルマトイ市・アルマトイ州・ジェティス州)。アスタナ市は4万8,362テンゲ。いずれも付加価値税を除く(エネルギー相令第210号、2025年5月21日改正)
上限価格の引き上げ日程同令は2028年6月までの各年度の値を定めている。アルマトイ市は2023年7月〜2024年6月の2万5,103テンゲから、2027年7月〜2028年6月には7万2,431テンゲになる
ロシア産ガスの受け入れウズベキスタン向けの供給は2023年10月に始まり、カザフスタン領内の中央アジア・センター系パイプラインを経由する。カザフスタン政府は通過量の拡大と国内供給の安定に向けた大規模補修へ3,690億テンゲを計上した(政府決定第463号、2026年完了予定)
ガス火力発電の目標電源構成に占めるガス火力を27%、年400億キロワット時へ(同)
地下貯蔵ボゾイ貯蔵所の活動ガス量を設計値の40億立方メートルへ(2028年)、アクルトベ貯蔵所は1シーズンあたり1億3,000万立方メートルの引き出しへ(2029年)(同)
ウズベキスタンの国内価格住民向けの天然ガスと液化ガスは規制料金で販売される。取得原価を下回る価格で売った場合、税額は当局が定めた価格にもとづいて計算される(大統領決定PP-5267号、2021年10月25日)

誰がどれだけ産出しているか

トルクメニスタンが域内最大の生産国である。国家統計委員長は2026年2月13日の拡大閣議で、2025年の天然ガス生産が765億2,710万立方メートル、前年比1.4%減だったと述べた。原油は838万2,300トンで1.2%増である。同国は統計を政府発表以外で確かめる手段が乏しく、数字を引くときは必ず発表主体を明示する必要がある。

アゼルバイジャンは規模で次ぐ。国家統計委員会によれば2026年1〜7月の天然ガス総生産は295億6,580万立方メートルで前年同期比1.1%増だった。ただしこのうち商品ガスは227億7,730万立方メートルで、差の約68億立方メートルは油層への圧入や事業所内の消費に回る。売れるガスと産出したガスは同じではない。

ウズベキスタンは減少が明確である。国家統計委員会が集計する大企業の生産量は、1〜7月でみて2024年の263億立方メートルから2025年254億立方メートル、2026年216億立方メートルへ下がった。2年で18%の減少にあたる。ガスコンデンセートも同じ期間に72万5,700トンから56万7,500トンへ減っている。国営のウズベクネフチガスは2026年1〜8月の生産を151億立方メートルと発表した。

カザフスタンは埋蔵量の内訳に特徴がある。エネルギー省によれば確認採掘可能埋蔵量3兆8,000億立方メートルのうち、2兆2,000億立方メートルが随伴ガス、1兆6,000億立方メートルがフリーガスである。随伴ガスは原油生産の副産物なので、産出量は原油の生産計画に従属し、ガスだけを増やすことができない。

国内需要が生産を追い越した経緯

カザフスタンの国内消費は、エネルギー省の集計で2010年の90億立方メートルから2020年には170億立方メートルへ、10年で91%増えた。増加の主因はガス化である。同省によれば2025年末の国民のガス化率は64.2%で、同年だけで84件の事業に1,124億テンゲを投じ、95の農村で35万5,000人が新たにガスを使えるようになった。2026年は40件・273億テンゲで64.3%へ上げ、接続人口は1,310万人になる計画である。

ガス化は生活水準の向上策であると同時に、石炭から天然ガスへ燃料を替える環境政策でもある。政府のガス産業発展総合計画2025〜2029年は、大規模な工業施設の石炭からガスへの転換を「国のエネルギー政策の中核」と位置づけている。需要を政策で増やしている以上、供給側が追いつかなければ不足になる。

同計画は、この点を自ら課題として列挙している。挙げられているのは、商品ガスの資源ベース拡大が探鉱・開発に多額の費用を要すること、地域のガス化と消費の伸びが国内における商品ガス不足のリスクを生むこと、そして国内需要と輸出義務の均衡を確保することが決定的に重要であること、である。政府文書が「輸出義務」を制約として書いている点が、この地域のガスの現状を端的に示している。

ウズベキスタンは、この局面をより早く迎えた。生産の減少と国内需要の増加が重なり、2023年10月からロシア産ガスの受け入れが始まった。輸送はカザフスタン領内を通る中央アジア・センター系のパイプラインを使う。カザフスタン政府の総合計画は、ロシア産ガスのウズベキスタン向け通過量を増やし国内市場への供給を絶やさないための大規模補修に3,690億テンゲを計上し、2026年の完了を予定している。中央アジアから北へ向けてガスを運ぶために建設された管を、逆向きに使うための工事である。

輸出の行き先

トルクメニスタンの輸出は中国にほぼ一極集中している。中国海関総署の統計では2026年1〜7月のトルクメニスタン・中国間の貿易は57億6,469万ドルで、うちトルクメニスタンから中国への輸出が47億5,932万ドル、比率にして82.6%だった。同じ期間の対中輸出比率はカザフスタンが43.5%、ウズベキスタンが12.9%であり、トルクメニスタンの偏りは際立っている。この輸出の柱が天然ガスである。前年同期比では4.3%減った。

トルクメニスタンはこの一極集中を緩めるため、TAPI(トルクメニスタン・アフガニスタン・パキスタン・インド)パイプラインを長く構想してきたが、着工と中断を繰り返している。国営トルクメンネフチは2026年8月15日、アシガバートでの式典でラシド・メレドフ副首相兼外相がTAPIと並行する送電線・光ファイバー線の実現に自信を示したと伝えたが、工程と資金の裏づけは示されていない。

アゼルバイジャンの輸出はトルコと欧州に向かう。カザフスタンは中国とロシアの双方に接続し、同時にロシア産ガスの通過国でもある。エネルギー省は自国を「中央アジアのガスハブ」と位置づけ、ロシア、中国、ウズベキスタン、トルクメニスタン、キルギスの相手方として振る舞っていると説明する。輸送網の結節点にいることと、自国の供給が潤沢であることは別の話である。

国内価格はどう決まるか

カザフスタンの国内向け商品ガスには、エネルギー相令が地域ごとの卸売上限価格を定めている。2023年6月6日の第210号令が骨格で、2025年5月21日の改正が現在の水準を置いた。特徴は二つある。第一に、地域差が非常に大きい。2026年7月〜2027年6月の上限は、産ガス地である西カザフスタン州で1,000立方メートルあたり2万992テンゲ、アクトベ州で2万6,550テンゲである一方、アルマトイ市とアルマトイ州、ジェティス州は5万5,716テンゲ、アスタナ市とアクモラ州は4万8,362テンゲである。いずれも付加価値税を除く額で、2026年9月1日の公定レート1ドル462.31テンゲで換算すると、それぞれ約45ドルと約120ドル、約105ドルにあたる。

第二に、将来の値が先に決まっている。同令は2028年6月までの各年度の上限を表で示している。アルマトイ市は2023年7月〜2024年6月の2万5,103テンゲから2027年7月〜2028年6月の7万2,431テンゲへ、5年で2.9倍になる日程である。東カザフスタン州だけは全期間を通じて7,563テンゲに据え置かれている。

この段階的な引き上げの狙いは、総合計画が「方向7」として掲げる価格形成の改革である。具体的には、内部相互補助からの段階的な脱却、ガス・ガスコンデンセート鉱床で採掘されたガスに別の価格算定方式を適用して増産を促すこと、そして国の優先買取権にもとづいて国営の運営者が買い取る原料ガスと商品ガスの価格について、引き上げ幅を10%までとする制限を見直すことである。生産者から見れば、規制価格で買い上げられるうえに値上げ幅にも上限がある状態が、探鉱投資を止めてきた。

ウズベキスタンでも住民向けは規制料金である。2021年10月25日の大統領決定PP-5267号は、天然ガスと液化ガスの住民向け販売が規制された料金で行われること、そして取得原価を下回る価格で販売した場合には当局が定めた価格にもとづいて課税額を計算することを定めている。原価割れの販売が制度として想定されている、という点にこの規定の意味がある。

隘路はガス処理能力にある

カザフスタンで採れるガスの大半は原油に伴って出てくる随伴ガスで、硫化水素や液分を含む。これを脱硫・分離して初めて商品ガスになる。総合計画が「方向2」に置いたのは、この処理能力を2029年までに50億立方メートル増やすことである。

内訳は、カシャガン鉱床のガス処理場が原料ガス年10億立方メートル分(第1段階、2026年、4,919億テンゲ)、ジャナオゼンが年9億立方メートル(2027年、1,677億テンゲ)、カラチャガナクが年40億立方メートル(2029年)である。アティラウ州にはカシャガン産の液化石油ガスを年70万トン取り扱う設備も予定されている。

資源ベースの側では、バルハンナヤ鉱床(2025年)、プリドロジノエ鉱床(2027年)、西プロルヴァ鉱床(2027年)、ウリフタウ鉱床(2027年)の稼働が並ぶ。シェールガスの探鉱・生産の可能性を検討する項目も2026年の課題として置かれている。

輸送と貯蔵も同じ計画に入っている。ベイネウ・ボゾイ・シムケント幹線の第2ラインの第1段階が2026年、タルディコルガン・ウシャラル線が2026年(1,317億テンゲ)、サルイアルカ幹線の第4段階が2027年(1,807億テンゲ)である。ボゾイ地下貯蔵所は活動ガス量を設計値の40億立方メートルへ引き上げる(2028年)。地下貯蔵は季節変動を吸収する装置であり、暖房期の供給が細る国では設備の有無が停止の有無を分ける。

天然ガスを何に使うか

ガスの用途は発電と暖房だけではない。総合計画は電源構成に占めるガス火力を27%、年400億キロワット時へ引き上げる目標を置き、同時にガス自動車燃料の普及(圧縮天然ガスのバスを2024年比90%増の5,143台へ、充填所を71%増へ)と、メタノール・アンモニア・合成ガスを作る炭素化学の育成を挙げている。

原料としてのガスの使い道を具体的に示すのが、アゼルバイジャンのSOCAR尿素工場である。同社の説明によれば、スムガイトの同工場は年4億3,500万立方メートルの天然ガスを原料に年65万〜66万トンの尿素を生産する。2019年1月16日の開所式でアリエフ大統領は、同量のガスを当時の価格で輸出すれば約8,000万ドルだが、尿素にすれば1億5,000万〜1億6,000万ドルになると述べた。同じガスを売るのと加工するのとで、得られる金額が2倍近く違うという説明である。

この計算はガスの安い国でしか成り立たない。国内価格が輸出価格に近づけば、加工の利ざやは薄くなる。カザフスタンが上限価格の段階的な引き上げを日程表に落としたことは、ガスを原料に使う産業にとって費用構造の変化を意味する。

数字の読み方

第一に、「生産量」が何を指すかを確かめる必要がある。アゼルバイジャンの統計は総生産と商品ガスを分けて示しており、2026年1〜7月はそれぞれ295億6,580万立方メートルと227億7,730万立方メートルで、23%の開きがある。差は圧入と自家消費である。カザフスタンも原料ガスと商品ガスを区別する。総生産だけを見ると、市場に出る量を大きく見誤る。

第二に、ウズベキスタンの生産量として公表される数字は「大企業」の分だけを集計したものである。統計委員会の資料はこの範囲を明記している。範囲の異なる系列を年ごとに並べ替えないよう注意が要る。

第三に、立方メートルは測定条件で変わる。同じガスでも基準温度・圧力の取り方で数%動くため、異なる国・異なる機関の数字を足し合わせるときは条件が揃っているかを確かめる。

第四に、埋蔵量の語義である。カザフスタンのエネルギー省が示す3兆8,000億立方メートルは「承認された採掘可能埋蔵量」であり、地下に存在する量でも、経済的に採れる量でもない。国ごとに分類の定義が違うため、順位表の比較には限界がある。

第五に、トルクメニスタンの数字は政府発表以外の裏づけがない。生産量、輸出量、鉱区ごとの実績はいずれも国営通信か閣議の報告として出てくるもので、独立した検証はできない。引用するときは発表主体と発表日を必ず添える。

参考資料

この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。

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