解説 · 2026年9月時点
サムルク・カズナ(Samruk-Kazyna)は、カザフスタンの主要国有企業の株式を一元的に保有する政府系ファンドである。石油ガスのカズムナイガス、鉄道のKTZ、ウラン世界最大手のカザトムプロム、送電のKEGOC、通信のカザフテレコム、ガスのQazaqGazと、この国の基幹産業の親会社がすべてここに集まる。唯一の株主はカザフスタン政府で、取締役会の議長は首相が務める。カザフスタンの大型民営化や国有企業の改革のニュースは、ほぼ例外なく同ファンドを経由する。
2025年末の連結総資産は44兆2,430億テンゲ、同年の連結売上高は18兆7,720億テンゲ、株主に帰属する純利益は2兆3,410億テンゲだった。グループ全体の従業員は25万4,049人で、うち11万8,506人がKTZ1社に属する。2025年に国庫と社会に還元した額は税・配当・寄付を合わせて4兆1,440億テンゲにのぼる。国有企業の集合体というより、この国の経済そのものの相当部分を抱える持株会社と考えたほうが実態に近い。
同ファンドは2032年までに純資産価値を2021年比で2倍にする目標を掲げ、当面は「戦略的持株会社」として社会・インフラ開発を担いつつ、2030年までに市場環境が許せば「投資持株会社」の運営モデルへ移ると説明している。共同投資家としては、民間投資家が実施できない重要な案件にのみ参加する方針である。
| 正式名 | Samruk-Kazyna JSC(国家福祉基金サムルク・カズナ。英語表記では JSC Sovereign Wealth Fund Samruk-Kazyna も使われる) |
|---|---|
| 設立 | 2008年10月13日の大統領令第668号と同月17日の政府決定第962号により、国有資産持株会社サムルクと持続可能発展基金カズィナを統合して発足 |
| 本社 | カザフスタン・アスタナ |
| 株主 | カザフスタン政府が唯一の株主 |
| 取締役会長 | オルジャス・ベクテノフ首相。取締役会には独立取締役が加わり、2025年の会合は21回開かれた |
| 経営執行役会議長 | ヌルラン・ジャクポフ |
| 総資産 | 44兆2,430億テンゲ(2025年末、前年41兆1,130億テンゲ) |
| 連結売上高 | 18兆7,720億テンゲ(2025年通期、政府補助金を除く。前年16兆4,330億テンゲ、14%増) |
| 株主帰属純利益 | 2兆3,410億テンゲ(2025年通期、前年2兆3,610億テンゲ) |
| EBITDA | 5兆6,160億テンゲ、マージン30%(2025年通期) |
| 自己資本 | 27兆1,800億テンゲ(2025年末) |
| 債務 | 連結債務11兆6,820億テンゲ、債務対EBITDA倍率2.08倍(2025年末) |
| 従業員 | 25万4,049人(2025年、前年25万6,380人)。うち女性26% |
| 格付 | S&P BBB-・見通しポジティブ(2025年8月28日)、ムーディーズBaa1・安定的(2025年10月1日)、フィッチBBB・安定的(2025年11月12日) |
| 国への還元 | 2025年の国庫等への貢献は4兆1,440億テンゲ。うち税3兆6,250億テンゲ、唯一株主への配当その他4,310億テンゲ、公益財団カザフスタン国民へ750億テンゲ、慈善130億テンゲ |
| 子会社の持分 | カズムナイガス67.42%、QazaqGaz 100%、カザフスタン鉄道(KTZ)100%、カザトムプロム62.99%、サムルク・エネルギー100%、KEGOC 85%、カザフテレコム80.85%、カズポスト100%、タウケン・サムルク100%(いずれも2025年末) |
| 関連会社・合弁の持分 | エア・アスタナ41.00%、カズジンク29.82%、カスピ海パイプライン・コンソーシアム20.75%、テンギズシェブロイル20.00%、KATCO 49.00%、ペトロカザフスタン33.00%、アジア・ガス・パイプライン50.00%、ベイネウ・シムケント・パイプライン50.00%、シレノ40.00%(いずれも2025年末) |
| ERG | ユーラシア・リソーシズ・グループ(ERG)の40%を保有する。ERGは残りを創業者側の民間株主が持つ |
| 主要企業の従業員 | KTZ 11万8,506人、カズムナイガス4万8,714人、カザフテレコム2万349人、カザトムプロム1万6,945人、カズポスト1万6,548人、QazaqGaz 1万3,520人、サムルク・エネルギー1万2,740人、KEGOC 4,472人(2025年) |
| 開発計画 | 2023〜2032年の開発計画。2032年までに純資産価値を2021年比で2倍にすることを掲げる |
| 民営化の枠組み | 2021〜2025年の包括民営化計画(2020年12月29日の政府決定第908号)。2026〜2030年に競争環境へ移す資産の新たな一覧が2025年10月24日の政府決定第894号で承認された |
| 投資 | 2025年の投資額は2兆2,900億テンゲ。国内調達は3兆7,460億テンゲ |
沿革
2008年10月13日の大統領令第668号と、同月17日の政府決定第962号により設立された。母体は二つで、一つは国有資産の管理持株会社サムルク、もう一つは開発金融機関を束ねる持続可能発展基金カズィナである。名称は、カザフの伝承に登場する幸福の鳥サムルクと、「宝庫」を意味するカズナに由来する。
発足した2008年は世界金融危機の年にあたり、同ファンドは国内銀行の救済と景気対策の実行部隊としての役割を初期から担った。以後も、国有企業の株主としての顔と、政府の政策を実行する道具としての顔を併せ持っている。2012年11月5日の政府決定第1403号でコーポレートガバナンス・コードが定められ、ファンドと、議決権株式の過半を直接または間接に保有する組織に適用されている。
2020年代に入ると、資産の絞り込みが進んだ。2025年には、カザフテレコム傘下のモバイル・テレコム・サービス(Tele2とAltelのブランドを運営)の全株式が売却され、同年の通信部門の売上は前年比23%・1,590億テンゲ減った。原子力発電所の建設準備を担うカザフスタン原子力発電所(KNPP)は、2025年12月30日に財務省国有財産・民営化委員会との間で全持分を国庫へ無償譲渡する合意が結ばれ、同月31日に持分の保有・使用の権利がカザフスタン原子力庁へ引き渡された。原発事業がファンドの外に出た形である。
統治構造と政府との関係
唯一の株主はカザフスタン政府であり、株主総会にあたる権限は政府が行使する。取締役会の議長は首相が務め、2024年2月に選任されたオルジャス・ベクテノフ首相が就いている。2025年末時点の取締役は9人で、議長のほか、大統領顧問のエルラン・ジャマウバエフ、大統領補佐官(経済担当)のカナト・シャルラパエフ、大統領府副長官のエルボラト・ドサエフ(2025年12月選任)という政府側の3人、独立取締役4人(ボラト・ジャミシェフ、ルカ・スーテラ、モハメド・ジャミール・アルラマヒ、ウォン・ヘン・ファイン)、そして経営執行役会議長のヌルラン・ジャクポフで構成される。2025年の取締役会は21回開かれた。
政府とファンドの関係は「協力協定」で定められており、取締役会長の任免、投資方針、資産の競争環境への移管などが取締役会の権限として整理されている。取締役会は年2回、政府の民営化計画に沿った資産移管の進捗を確認する。
この構図には利害の重なりがある。発注者である政府が唯一の株主であり、料金や関税を決める規制当局も政府である。実際、2025年には規制対象の鉄道貨物運賃と旅客運賃の引き上げが行われ、KTZの財務に影響した。同年のグループの価格・料金の内部補助は1兆6,960億テンゲにのぼる。読み手はこの点を念頭に置く必要がある。
保有する企業
2025年末の連結対象の主な子会社は、カズムナイガス(67.42%、探鉱・生産・精製・輸送)、QazaqGaz(100%、天然ガス)、カザフスタン鉄道(100%)、カザトムプロム(62.99%、ウラン)、サムルク・エネルギー(100%、発電・熱供給)、KEGOC(85%、送電系統運用)、カズポスト(100%、郵便・金融)、カザフテレコム(80.85%、通信)、タウケン・サムルク(100%、固体鉱物)、サムルク・カズナ・オンデウ(100%、化学)などである。このほか、エキバストゥズGRES-2、CCGTトルキスタン、コクシェタウ熱電併給などの発電会社を直接保有する。
合弁と関連会社の持分も大きい。合弁ではテンギズシェブロイル20.00%(20%でも重要事項に全会一致が必要なため共同支配とされる)、アジア・ガス・パイプライン50.00%、ベイネウ・シムケント・パイプライン50.00%、シレノ40.00%(第1次統合ガス化学コンビナートの建設)、セミズバイU 51.00%などがある。関連会社ではカズジンク29.82%、カスピ海パイプライン・コンソーシアム20.75%、KATCO 49.00%、エア・アスタナ41.00%、ペトロカザフスタン33.00%が主なものである。
ユーラシア・リソーシズ・グループ(ERG)の40%も同ファンドが持つ。ERGはルクセンブルクに持株会社を置く資源グループで、カザフスタンのフェロクロム、鉄鉱石、アルミナ、一次アルミの生産を担う。残る株式は創業者の系譜につながる民間株主が保有しており、同ファンドは筆頭株主だが支配株主ではない。
主要企業の従業員数を並べると、この持株会社の重さが分かる。KTZ 11万8,506人、カズムナイガス4万8,714人、カザフテレコム2万349人、カザトムプロム1万6,945人、カズポスト1万6,548人、QazaqGaz 1万3,520人、サムルク・エネルギー1万2,740人、KEGOC 4,472人である。グループ全体では25万4,049人にのぼる。
2025年の財務
2025年通期の連結売上高(政府補助金を除く)は18兆7,720億テンゲで、前年の16兆4,330億テンゲから14%増えた。石油部門は減産にもかかわらず価格と石油製品販売の伸びで増収となり、ガス部門は国内販売の増加と国際ガストランジットの15%増が寄与した。石油・ガスの輸送量はパイプラインと海上の双方で増え、発電部門は2025年2月の料金引き上げが効いた。一方、通信部門は子会社売却の影響で1,590億テンゲ(23%)減った。
株主に帰属する連結純利益は2兆3,410億テンゲで、前年の2兆3,610億テンゲからわずかに減った。EBITDAは5兆6,160億テンゲでマージンは30%、前年の4兆9,050億テンゲから増えている。総資産は44兆2,430億テンゲ、自己資本は27兆1,800億テンゲである。
連結債務は11兆6,820億テンゲで、債務対EBITDA倍率は2.08倍と前年の1.9倍から上がった。同ファンドはこれを、EBITDAの伸びを上回る速さで債務が増えたためだと説明している。格付けはS&PがBBB-(見通しポジティブ、2025年8月28日)、ムーディーズがBaa1(安定的、同年10月1日)、フィッチがBBB(安定的、同年11月12日)である。
2025年の投資額は2兆2,900億テンゲで、エネルギー、ガスインフラ、輸送・通信、探鉱・生産に向かった。国内の供給業者からの調達は3兆7,460億テンゲである。国庫等への貢献は4兆1,440億テンゲで、内訳は税3兆6,250億テンゲ、唯一株主への配当その他4,310億テンゲ、公益財団カザフスタン国民への拠出750億テンゲ、慈善130億テンゲである。
民営化とIPO
同ファンドの役割の一つは、保有する資産を段階的に競争環境へ移すことである。政府の包括民営化計画がその枠組みで、2014〜2016年(2014年3月31日の政府決定第280号)、2016〜2020年(2015年12月30日の政府決定第1141号)、2021〜2025年(2020年12月29日の政府決定第908号)と続いてきた。2025年10月24日の政府決定第894号では、2026〜2030年に競争環境へ移す資産の新しい一覧が承認されている。
株式公開の系譜は「国民IPO」から始まる。2011年2月にナザルバエフ大統領が示した指示にもとづく計画で、国民が主要企業の株式を直接持てるようにすることと、国内資本市場を育てることが目的だった。第1号は2012年のカズトランスオイルで、1株725テンゲで3,846万3,559株を売り出し、2012年11月6日から12月5日までの申込期間に3万4,687件・594億890万テンゲの申込みが入って募集額の2倍を超えた。最終的に個人投資家が発行済株式の79.1%分の割当てを受けている。
第2号は2014年12月18日のKEGOCで、申込みは4万1,997件・166億7,592万テンゲに対し募集上限は131億3,000万テンゲだった。個人投資家の申込みはすべて満額で満たされ、募集全体に占める個人の比率は72.15%、統一年金基金が26.31%、マーケットメーカーが1.54%となった。KEGOCは2023年にも追加売り出しが行われ、同ファンドの持分は85%になっている。
次の段階は国際市場である。2016〜2020年の包括民営化計画にもとづき、2018年11月にカザトムプロムの株式14.92%(3,869万4,708株)がロンドン証券取引所とアスタナ国際取引所(AIX)に同時上場した。募集の約86%がロンドン、約14%がAIXで消化され、価格は預託証券1単位11.6ドル、1株4,322.74テンゲだった。2019年9月に3.8%(986万3,021株)、2020年6月に6.28%(1,628万1,423株)が追加売り出しされ、同ファンドの持分は75%、流通株は25%になった。
2020年代には、2022年12月のカズムナイガス(KASEとAIXに約3%を売り出し)、2024年2月のエア・アスタナ(ロンドン、AIX、KASEの3市場に同時上場)が続いた。エア・アスタナのIPO後、同ファンドの持分は41.00%である。2021〜2025年の計画では、IPOまたは戦略投資家への売却の対象として8社、その他の方法で競争環境へ移す資産として17件が挙げられていた。
数字の読み方
同ファンドの財務諸表はテンゲ建てであり、ドル建ての「運用資産」とは基準が違う。政府系ファンドを比較する調査機関グローバルSWFは2025年末時点の運用資産を約886億ドルとし、世界の上位25位圏に位置づけているが、これは連結総資産とは算定の方法が異なる。テンゲ建ての44兆2,430億テンゲという数字と、ドル建ての数字を同じものとして扱わないほうがよい。為替が動けばドル表示は変わる。
「連結売上高」には政府補助金が含まれない。同ファンドの一部の事業は規制料金の下で原価を割る価格で供給しており、その差額は補助金や内部補助で埋められている。2025年の価格・料金の内部補助は1兆6,960億テンゲにのぼる。営業の実力を見るときは、この規模の補助が前提にあることを踏まえる必要がある。
連結の範囲は年によって変わる。2025年にはカザフテレコム傘下のモバイル・テレコム・サービスが売却され、原子力発電所の建設準備会社KNPPが国庫へ移り、カザク・エアも連結から外れた。前年比の増減を見るときは、範囲の変更によるものかどうかを確かめる必要がある。2024年の財務数値は2025年の連結財務諸表にあわせて修正再表示されている。
持分比率と支配の有無は一致しない。テンギズシェブロイルの20%やシレノの40%は、重要な事項に全参加者の同意が要るため共同支配(合弁)として扱われ、持分法で取り込まれる。一方でエア・アスタナの41%やカズジンクの29.82%は関連会社である。したがって、これらの企業の売上や利益は同ファンドの連結売上高には含まれない。
年次報告書の「グループ従業員数」25万4,049人は、連結子会社の雇用者を数えたものである。合弁・関連会社の従業員や請負業者は含まれない。
参考資料
- Samruk-Kazyna Annual Report 2025(PDF。連結財務、持分比率、従業員、格付、民営化の枠組み) ↗
- About the Fund — Samruk-Kazyna(設立、開発計画2023-2032) ↗
- Financial Performance — Samruk-Kazyna(設立の法令、年次報告書の一覧) ↗
- Portfolio companies — Samruk-Kazyna ↗
- IPO history — Samruk-Kazyna(国民IPOとカザトムプロムのIPO・SPOの株数と価格) ↗
- About us — Eurasian Resources Group(サムルク・カズナの40%保有の記述) ↗
- Air Astana Group successfully completes its IPO(2024年2月) ↗
- Shareholders — KEGOC(2014年のIPOと2023年のSPO) ↗
- IPO Materials — カザトムプロム(公式) ↗
- Fund of the Month: Samruk-Kazyna — Global SWF(2026年4月、運用資産と順位) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。誤りに気づいた方はお問い合わせください。