解説 · 2026年9月時点
ジョージア鉄道(Georgian Railway)は、ジョージアの国有鉄道会社である。法律上この国で唯一の鉄道事業者であり、線路、駅、電力設備、車両、線路に付随する土地までを自社で保有する垂直統合型の経営をとる。旧ソ連規格の軌間1,520mmの路線網を運営し、アゼルバイジャンおよびアルメニア国境からトビリシを経て黒海のバトゥミ港・ポチ港・クレヴィ港へ至る東西の幹線が柱である。
カスピ海側から黒海側へ貨物を通すコーカサス横断輸送のかなめであり、輸送量の増減は中間回廊全体の体温計として読める。アゼルバイジャン鉄道の路線網とあわせてコーカサス鉄道回廊を形成し、欧州・コーカサス・アジア輸送回廊(TRACECA)の中核区間にあたる。
| 正式名 | JSC Georgian Railway |
|---|---|
| 法人登記 | 1998年12月21日、識別番号202886010(ジョージア企業登記簿) |
| 本社 | ジョージア・トビリシ、タマル・メペ大通り15番地 |
| 株主 | ジョージア政府。2022年12月から直接保有し、それ以前はパートナーシップ基金が全株を保有していた |
| 総支配人 | ラシャ・アバシゼ(2026年9月時点) |
| 事業 | 法律上ジョージア唯一の鉄道会社。貨物輸送、旅客輸送、インフラの3事業単位で運営する垂直統合型 |
| 軌間 | 本線1,520mm。ボルジョミ〜バクリアニの観光支線のみ912mm |
| 軌道総延長 | 2,440.96キロ(2025年末。うち電化2,402.74キロ) |
| 営業キロ | 1,592.57キロ(2025年末)。本線は551.31キロで、うち複線314.55キロ |
| 貨物輸送量 | 1,325万7,600トン(2025年通期、前年比3.0%減) |
| 旅客輸送 | 171万7,900人、旅客キロ3億9,330万(2025年通期) |
| 売上高 | 6億1,235万5,000ラリ(2025年通期) |
| 調整後EBITDA | 1億9,201万4,000ラリ、マージン31.36%(2025年通期) |
| 従業員 | 約1万2,000人。ジョージア有数の大口雇用主とされる |
| 格付け | S&P、フィッチともにBB-(見通し安定的、2025年時点。初回付与は2010年でいずれもB+) |
| 資本市場 | 5億ドルのグリーンボンド(利率4.00%、2028年6月17日償還、ロンドン証券取引所)の発行体 |
沿革
起源は帝政ロシア期の1872年に開通したポチ〜トビリシ線で、コーカサスで最も古い鉄道の一つである。1883年にトビリシとバクーが線路でつながり、バクー油田の原油を黒海へ運ぶ輸送路として発展した。ソ連期はザカフカス鉄道の一部だった。1992年に独立国の鉄道として再編されている。
1993年には欧州・コーカサス・アジア輸送回廊(TRACECA)の創設メンバーとなった。2005年に外部の助言にもとづく再編計画を開始し、2008年に事業を貨物・旅客・インフラの3つの事業単位に分けている。2010年にはロンドン証券取引所で初のユーロ債を発行し、フィッチとスタンダード・アンド・プアーズから初めて格付けを取得した。
2013年に貨物利用運送事業へ進出、2015年には中国からの列車がジョージアを走った。2016年末から2017年にかけてスイスのシュタッドラーから旅客用の新型車両4編成を購入している。2017年にはアゼルバイジャンとトルコを直結するバクー・トビリシ・カルス(BTK)鉄道が開通し、同社の路線はカスピ海とトルコ・欧州を結ぶ陸上輸送の中継区間となった。
2019年には黒海とカスピ海で新たなフィーダー航路の運航を始めた。2021年6月にはコーカサスの運輸部門として初のグリーン・ユーロ債を発行し、2022年12月からは政府が株式を直接保有している。
路線と設備
ジョージア統計局の2025年末の集計では、軌道の総延長が2,440.96キロで、そのうち2,402.74キロが電化されている。営業キロの総計は1,592.57キロ、うち電化は1,588.58キロである。営業キロの内訳は本線551.31キロ(複線314.55キロ、単線236.76キロ)と支線579.16キロで、これに別掲のアブハジア区間235キロ、ボルジョミ〜バクリアニ線37.4キロ、マラブダ〜アハルカラキ線189.7キロが加わる。
同社自身が2021年の債券目論見書で示した数字は「2020年12月31日時点で軌道1,436キロ、うち97%が電化、アゼルバイジャンおよびアルメニア国境から黒海に至る527キロの完全電化された本線を含む」であり、グリーンボンド報告書では「路線網1,408キロ、うち複線293キロ、98%が電化」としている。
設備は、2020年末時点で鉄道トンネル40本、各種の橋梁1,323本、貨物駅99を数えた。電化区間の変電所は53か所である。本線の設計軸重は23.5トン、設計最高速度は旅客列車が時速80キロ、貨物列車が時速60キロで、中央部の峡谷区間ではこれを大きく下回る。牽引は電気機関車と電車が主で、ディーゼル機関車は入換と非電化の側線に限って使われる。
貨物輸送
収入の中心は貨物である。ジョージア統計局によれば、貨物輸送量は2018年の1,000万5,000トンから2022年の1,477万2,800トンまで増えた後、2023年1,355万1,500トン、2024年1,367万3,600トン、2025年1,325万7,600トン(前年比3.0%減)と推移している。
2025年の内訳は、通過貨物761万6,600トン(57.4%)、国際輸送のうち到着348万1,800トン、発送111万3,700トン、国内輸送104万5,500トンである。減少をもたらしたのは通過貨物で2024年の811万7,000トンから6.2%減り、到着貨物は307万2,600トンから13.3%増えた。
2026年に入ると流れは変わった。第2四半期の輸送量は390万トンで前年同期比19.9%増となり、通過が59.8%、国際輸送(通過を除く)が33.5%、国内が6.7%を占めた。方向別では到着が75.3%、発送が24.7%という非対称な構成が続く。到着貨物の送り出し国はロシアが38.0%、アゼルバイジャンが22.7%、発送貨物の仕向け先はアルメニアが17.4%、ロシアが10.1%、カザフスタンが7.1%だった。
品目では、2026年第2四半期はコークスと石油製品が32.7%、化学品・ゴム・プラスチックが22.2%、食品・飲料・たばこが13.7%を占める。通過貨物に限るとこの3品目で83.6%に達し、石油製品と化学品の通過が業績を左右する。国内輸送では金属鉱石など採掘産品が54.5%と最も多い。コンテナ扱いの重量は2024年の129万3,200トンから2025年は162万6,400トンへ増えた。線路の容量は峡谷区間で制約を受け、年間輸送能力は2,700万トン、近代化事業の完成後は4,800万トンとされる。
旅客輸送
旅客は国内輸送が中心である。輸送人員は2019年の302万6,700人から新型コロナウイルスの影響で2020年に93万9,000人、2021年に81万6,100人まで落ち込み、2023年に228万3,300人へ戻した後、2024年207万7,000人、2025年171万7,900人と再び減っている。2025年の旅客キロは3億9,330万だった。
2026年第2四半期の輸送人員は42万5,800人で前年同期比0.5%減、旅客キロは9,170万で2.3%減とほぼ横ばいである。ただし国際旅客は1万7,400人と前年同期の約3.5倍に増えた。統計上、アゼルバイジャン方面の乗降は2021年から2025年までゼロが続いていたが、2026年第2四半期に再び計上されている。
幹線の近代化とトビリシ迂回線
同社が長く抱えてきた設備上の課題は、ジョージア中央部の峡谷区間(約40キロ)の隘路である。これを解消するのが「トビリシ〜マヒンジャウリ幹線近代化事業」で、勾配と曲線を緩和した新線を建設し、あわせて既設の軌道・電力設備・橋梁・トンネルを更新する。曲線半径は現行の200メートルから400メートルへ広げる設計である。土木工事は2011年8月12日の契約により中国鉄道系の建設会社が担い、施工監理はILFとDBインターナショナルの企業連合が行う。ジョージアで最長となる全長8.33キロの第9トンネルを含む複数のトンネルが掘削された。事業費は3億ドルを超え、2025年の同社の報告書では工事の96%が完了したとされている。
もう一つの大型事業がトビリシ迂回線である。2008年末にトビリシ市が提案したもので、市中心部を通る鉄道施設を北部へ移し、貨物列車と旅客列車が中心市街を通らないようにする計画だった。市側は環境と安全の懸念の緩和と、中心部の用地が売却可能になることを利点に挙げ、同社もこれを受け入れた。2010年6月に施工契約が結ばれている。
しかし2013年6月、同社は計画の再設計を決めたと発表した。進行中の工事は2013年10月末までにおおむね終え、以後の建設は中断された。2014年3月には政府が、修正案の提示までの18か月間は中断を続けると決定した。2015年から2016年にかけて、迂回の経路そのものを変更する案や、既存の構造物を自動車用の迂回道路、トビリシ地下鉄の延伸、貨物基地へ転用する案が検討されたが、2021年3月末の時点でも政府の決定は出ていない。同社は将来の経済的便益が見込めないとして、この事業の帳簿価額を回収可能価額(主として土地)まで減損処理した。2012年に宣言した2億3,159万2,000ラリの配当は、迂回線に関する覚書にもとづき政府への将来の土地売却の対価とみなすことで合意され、前受金として計上されている。この扱いと土地の移転は決着していない。
このほか、アナクリア港へ接続する全長17キロの電化単線をセナキ〜イングリ〜ガリ線から分岐させる計画がある。
資本市場と財務
国有企業だが外貨建て債券の発行体として財務を開示している。2010年にロンドン証券取引所で初のユーロ債を発行し、2012年には5億ドル、利率7.75%、2022年償還の債券を発行した。2021年5月26日に同債券の買入消却と早期償還を条件とする公開買付けを行い、6月17日に発行したのが現在の5億ドルのグリーンボンド(利率4.00%、2028年6月17日償還)である。手取金のうち約4億9,450万ドルが既往債務の借り換えに、約400万ドルが近代化事業を含むインフラ投資に充てられた。ロンドン証券取引所の規制市場と同取引所のサステナブル・ボンド市場に上場している。アジア開発銀行(ADB)と欧州復興開発銀行(EBRD)が投資家として参加し、保有する間の環境・社会面の報告義務を定める合意を同社と結んでいる。
調達資金は、近代化事業、車両の取得と維持、輸送用インフラの改修、既設電化路線の延伸と改修、信号・連動・閉塞設備の5分野に配分され、2023年12月時点で全額が充当済みとされている。
業績は貨物の増減に連動する。売上高は2023年が6億2,717万3,000ラリ、2024年が6億4,833万7,000ラリ、2025年が6億1,235万5,000ラリで、調整後EBITDAはそれぞれ1億6,782万2,000ラリ、2億2,057万6,000ラリ、1億9,201万4,000ラリ、マージンは26.76%、34.02%、31.36%だった。2026年上半期は売上高3億681万2,000ラリ(前年同期2億9,565万2,000ラリ)、調整後EBITDA1億4,060万6,000ラリ(同7,429万8,000ラリ)で、マージンは25.13%から45.83%へ上昇した。
格付けはスタンダード・アンド・プアーズとフィッチの2社から取得している。いずれも2010年の初回はB+で、2025年時点の最新はともにBB-(見通し安定的)である。
数字を読むときの注意
路線の長さは出典によって食い違う。統計局が示す軌道の総延長(2025年末で2,440.96キロ)は複線を2本分として数え、営業していない区間や別会社が運営する区間も別掲で含む。これに対し同社が投資家向け資料で示す1,436キロや1,408キロは集計の範囲が違う。確かめずに並べると、同じ年でも1,000キロ近い差が生じる。
貨物輸送量の統計はジョージア鉄道自身が統計局へ提出したものである。統計局は総計と内訳の合計が四捨五入のために一致しない場合があると注記しており、特定の国との輸送量は機密保持のため公表されない項目がある。
財務の数字は通貨にも注意が要る。同社の売上高とEBITDAはラリ建てで開示される一方、市場調査会社のレポートではドル換算で示されることがあり、為替の変動によって増減率が一致しない。
参考資料
- JSC Georgian Railway(公式サイト) ↗
- Ratings and Performance Highlights — Georgian Railway(売上高・調整後EBITDA・格付け) ↗
- Statistics — Georgian Railway(軌道・電力・信号設備の諸元) ↗
- Eurobonds — Georgian Railway ↗
- JSC Georgian Railway US$500,000,000 4.00% Green Bonds due 2028 — Prospectus(2021年6月) ↗
- Green Bond Allocation and Impact Report — JSC Georgian Railway ↗
- Railway Transport Statistics(貨物・旅客・インフラの年次系列)— Geostat ↗
- Main Indicators of Railway (2026, II Quarter) — Geostat(2026年8月19日) ↗
- The Tbilisi-Makhinjauri main railway magisterial modernization project — Georgian Railway ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。誤りに気づいた方はお問い合わせください。