解説 · 2026年9月時点
アジア開発銀行(ADB)は、アジア太平洋地域の開発を目的として1966年に設立された国際開発金融機関である。本部はフィリピンのマニラ首都圏。2025年末時点の加盟は69で、うち50が域内、19が域外の国と地域である。日本と米国が応募資本の15.571%ずつを持つ最大の株主で、歴代の総裁はいずれも日本人が務めてきた。2025年2月に就任した神田眞人総裁は、2026年9月1日に全会一致で再任されている。
中央アジア・コーカサス8か国はすべてADBの加盟国である。ADBの部局では、この地域は南・中央・西アジア担当副総裁と中央・西アジア局の所管に入り、ジョージアやアゼルバイジャンもアジアの一部として扱われる。ジョージアは欧州統合を掲げながら、対外公的債務の最大の債権者がADBだという構図になっており、この地域の資金の流れを見るときに見落とせない点である。
2025年12月31日時点で、8か国向けのOCR(通常資本財源)貸出は承諾済み・未実行分を含めて233億6,900万ドルにのぼり、ADBの貸出総額の10.58%を占める。国別では、ウズベキスタンが108億5,700万ドルで全体の4.91%を占めて突出しており、以下ジョージア38億7,900万ドル、カザフスタン26億2,800万ドル、アゼルバイジャン21億3,300万ドルと続く。ウズベキスタンはADB全体でも上位の借り手であり、この地域の対外資金調達を語るうえで最も重要な機関の一つである。
| 正式名 | Asian Development Bank(ADB) |
|---|---|
| 設立 | 1966年。アジア開発銀行設立協定(憲章)にもとづく国際機関 |
| 本部 | フィリピン・マニラ首都圏マンダルーヨン市。フランクフルト、東京、ワシントンに代表事務所を置く |
| 総裁 | 神田眞人(2025年2月就任)。2026年9月1日に全会一致で再任された。歴代の総裁はいずれも日本人が務めている |
| 加盟 | 69。うち域内が50で資本の63.7%、域外が19で36.3%を持つ(2025年12月31日時点) |
| 応募資本 | 1,458億3,300万ドル(2025年12月31日時点) |
| 最大株主 | 日本と米国が各165万6,630株・応募資本の15.571%(議決権はそれぞれ12.747%)。次いで中国6.429%、インド6.317%、オーストラリア5.773% |
| 2025年の実績 | 承諾額293億ドル(2024年は243億ドル)、実行額190億ドル(同186億ドル) |
| 貸出残高 | 通常資本財源(OCR)の貸出残高1,611億ドル(2025年末、前年比72億ドル増)。借入残高はスワップ後で1,697億ドル、2025年の債券発行は417億ドル |
| 収益 | OCRの純利益19億300万ドル、配分可能純利益14億6,000万ドル(2025年通期) |
| 譲許的財源 | アジア開発基金(ADF)第13次増資(ADF14)と技術支援特別基金第8次増資が2025年4月23日に発効。2025年末までに33のドナーから23億9,500万ドルの拠出証書を受領し、約束額25億7,300万ドルの93.1%に達した |
| ウズベキスタン | OCR貸出の合計108億5,700万ドル(うち残高87億6,200万ドル)。ADBの貸出総額の4.91%で域内最大。出資比率0.672%、議決権0.828% |
| ジョージア | 同38億7,900万ドル(残高27億9,900万ドル)、1.76%。出資比率0.341%、議決権0.562% |
| カザフスタン | 同26億2,800万ドル(残高18億6,200万ドル)、1.19%。出資比率0.805%、議決権0.934%で域内最大の出資国 |
| アゼルバイジャン | 同21億3,300万ドル(残高19億7,400万ドル)、0.97%。出資比率0.444%、議決権0.645% |
| アルメニア | 同17億6,300万ドル(残高11億3,400万ドル)、0.80%。出資比率0.298%、議決権0.528% |
| キルギス | 同12億4,400万ドル(残高8億7,400万ドル)、0.56%。出資比率0.298%、議決権0.529% |
| トルクメニスタン | 同5億7,600万ドル(残高5億ドル)、0.26%。出資比率0.253%、議決権0.492% |
| タジキスタン | 同2億8,900万ドル(残高2億7,900万ドル)、0.13%。出資比率0.286%、議決権0.518% |
| 8か国の合計 | OCR貸出233億6,900万ドル。ADBの貸出総額の10.58%にあたる(2025年12月31日時点) |
| CAREC | 中央アジア地域経済協力(CAREC)計画の事務局を務める。参加は11か国で、2001年から2025年12月までに579億ドルの投資を動員した |
| 年次総会 | 第59回を2026年5月4日からウズベキスタンのサマルカンドで開催。第60回は2027年5月に愛知県名古屋市で開かれる |
| 域内の担当 | 南・中央・西アジア担当副総裁は楊應明、中央・西アジア局長はリア・グティエレス(2026年4月時点) |
設立と統治
1966年、アジア開発銀行設立協定(憲章)にもとづいて発足した。本部をマニラに置く点、地域の開発途上加盟国(DMC)を支援する点は当初から変わらない。加盟は域内50、域外19の計69で、域内が資本の63.7%、域外が36.3%を持つ。域外の加盟国には米国、ドイツ、フランス、英国、カナダなどが含まれる。2025年4月30日には総務会決議にもとづいて域外加盟国の1つが域内加盟国へ移った。
意思決定は総務会(Board of Governors)と、常設の理事会(Board of Directors)に分かれる。理事は12人で、日本、米国、中国はそれぞれ単独で1議席を持ち、残りは複数の加盟国が選挙区(コンスティチュエンシー)を組んで1議席を分け合う。中央アジア・コーカサスの各国もこの選挙区に分かれて所属しており、2026年4月時点ではウズベキスタンが韓国・パプアニューギニア・スリランカなどと、カザフスタンがパキスタン・フィリピン・モンゴルなどと、ジョージアとアゼルバイジャンがオーストラリア・カンボジアなどと、アルメニアとキルギスがインドネシア・ニュージーランドなどと、タジキスタンとトルクメニスタンがインド・バングラデシュなどと同じ議席を共有する。域内の8か国はいずれも自国単独の理事を持たない。
出資比率と議決権は一致しない。加盟国には出資額にかかわらず配分される基礎票(ベーシック・ボート)があるため、小さな加盟国ほど議決権の比率が出資比率を上回る。たとえばトルクメニスタンは出資比率0.253%に対し議決権0.492%、日本は出資比率15.571%に対し議決権12.747%である。
財源の型
ADBの資金は、通常資本財源(OCR)と特別基金(Special Funds)に分かれ、憲章によって別々に管理することが義務づけられている。OCRは応募資本と市場からの借入を原資とし、主権国家向け(ソブリン)と民間・国有企業向け(ノンソブリン)の両方に貸す。ソブリン向けはさらに、経済発展の進んだ国向けの「通常OCR融資」と、最も貧しく脆弱な国向けの「譲許的OCR融資」に分かれる。
特別基金の中心はアジア開発基金(ADF)で、こちらはドナー国の拠出による贈与が中心である。第13次増資にあたるADF14と、技術支援特別基金の第8次増資は2025年4月23日に発効した。2025年末までに33のドナーから23億9,500万ドルの拠出証書を受け取り、約束額25億7,300万ドルの93.1%に達している。域内ではタジキスタンとキルギスがこの譲許的な資金の対象になりやすい。
2017年以降、ADFの貸出勘定はOCRに統合されており、譲許的な融資もOCRの貸借対照表から出る。したがって国別の「OCR貸出」には、市場条件に近い融資と譲許的な融資の両方が含まれている。ADBはこのほか、技術協力、贈与、保証、持分投資、そして借入国向けの金利スワップ・通貨スワップといった債務管理商品も提供する。
2025年の総承諾額は293億ドルで、2024年の243億ドルから2割増えた。実行額は190億ドル。OCRの貸出残高は1,611億ドル、借入残高はスワップ後で1,697億ドルにのぼり、同年の債券発行額は417億ドルだった。
CAREC計画の事務局
ADBが域内で持つ最も特徴的な役割は、中央アジア地域経済協力(CAREC)計画の事務局を務めていることである。起点は1996年に承認された地域経済協力の技術支援で、翌1997年に中国の新疆ウイグル自治区、カザフスタン、キルギス、ウズベキスタンを対象とする地域技術支援が始まった。1998年にタジキスタンが加わり、2000年にADB内にCAREC事務局が置かれ、2001年にマニラで最初の高級実務者会合が開かれている。2002年に第1回閣僚会議、2003年にアゼルバイジャンとモンゴル、2005年にアフガニスタン、2010年にパキスタンとトルクメニスタン、2016年にジョージアが加わり、現在の11か国になった。
開発パートナーとしてADBのほか、アジアインフラ投資銀行(AIIB)、欧州復興開発銀行(EBRD)、国際通貨基金(IMF)、イスラム開発銀行(IsDB)、国連開発計画(UNDP)、世界銀行が加わる。2017年には長期の枠組みである「CAREC 2030」が閣僚会議で承認され、経済・金融の安定、貿易・観光・経済回廊、インフラと接続性、農業と水、人的開発の5つの領域に業務が整理された。
CARECは2001年から2025年12月までに579億ドルの投資を動員したとしている。2001年から2020年までの内訳は213件・400億ドルで、道路や鉄道の回廊整備、国境通過手続きの簡素化、電力網の連系、貿易円滑化が柱である。6本のCAREC輸送回廊は中国北部からコーカサスのアゼルバイジャンを経て欧州へ、またカザフスタンからパキスタンの不凍港カラチ・グワダルへ向かう経路を束ねており、中間回廊(トランス・カスピ海輸送回廊)の整備もこの文脈で語られることが多い。
2026年には、CAREC地域の国境通過施設を近代化する4億ドルの地域資金供与枠「BUILDファシリティ」をADBが承認した。道路と鉄道の国境通過点への投資に、通関のデジタル化、検査・審査機器、手続きの調和を組み合わせるもので、11か国すべてが対象になる。
域内での案件
ADBの域内での存在感は、各国の対外公的債務の統計に表れる。キルギス財務省の公表では、2026年6月30日時点の対外公的債務52億1,515万ドルのうちADBが8億6,783万ドルで16.6%を占め、世界銀行の国際開発協会(IDA)に次ぐ第2位の債権者だった。ジョージアでは、財務省の公表データにもとづく2026年7月時点の対外公的債務90億1,600万ドルのうちADBが24億6,900万ドルで最大の債権者である。
ジョージアでは道路と空港が中心になっている。トビリシ環状道路の第4・第5工区(合計約18.9キロメートル)には2億5,000万ドルの融資が付き、2026年6月に公示された国際入札は同年9月14日まで延長された。トビリシ近郊ヴァジアニに計画される新国際空港(年間旅客2,000万人規模、2032年の運用開始を目標)の実現可能性調査もADBの支援で進んでいる。世界銀行グループが3億7,200万ドルを出す中間回廊関連の事業「TC-GATE」(総額7億5,000万ドル)では、AIIBとともに協調融資に加わる。
タジキスタンでは、ハトロン州のダンガラとグリストンを結ぶ道路の改良・拡幅に8,670万ドルの贈与を供与し、EBRDの最大3,800万ユーロのソブリン融資と組み合わせている。ウズベキスタンでは民間の発電案件への協調融資が目立ち、ACWAパワーがブハラ州ギジュドゥヴァン地区で進める30万キロワットの風力発電(バシュII)に対し、2026年5月7日のサマルカンド年次総会の場でAIIB、スタンダードチャータード銀行とともに総額2億2,600万ドルの融資契約に署名した。
2026年5月4日から開かれた第59回年次総会がウズベキスタンのサマルカンドで行われたこと自体、この地域におけるADBの位置づけを示している。日本政府はこの場で、ADBと協調する100億ドル規模の「アジア・エネルギー・資源供給力強靱化パートナーシップ」と、その一環である「長期的強靱性に向けたエネルギー行動枠組み」を立ち上げたと表明した。重要鉱物の精錬・製造を支える「重要鉱物ー製造業資金パートナーシップ・ファシリティ」への2,000万ドルの拠出も同じ場で示されている。
自国通貨建ての融資
ADBは域内で自国通貨建ての融資を広げつつある。2025年12月31日時点で貸出債権の通貨別内訳には、カザフスタン・テンゲ建てが4億4,500万ドル相当(2024年は2億8,800万ドル相当)、ジョージア・ラリ建てが1億9,600万ドル相当(同2億3,100万ドル相当)、ウズベキスタン・スム建てが7,600万ドル相当、タジキスタン・ソモニ建てが3,200万ドル相当、アゼルバイジャン・マナト建てが1,300万ドル相当、キルギス・ソム建てが500万ドル相当含まれる。スム建てとソモニ建ては2024年末時点ではゼロで、2025年に新たに積み上がった。
自国通貨で貸すには、同じ通貨で資金を調達するか、スワップで為替リスクを消す必要がある。ADBの2025年末の借入残高には、ジョージア・ラリ建て1億8,900万ドル相当、カザフスタン・テンゲ建て3億6,200万ドル相当、キルギス・ソム建て500万ドル相当が含まれている。借り手にとっては、ドル建てで借りて自国通貨が下落したときに返済負担が膨らむ危険を避けられる意味がある。
2020年代の資本改革
2010年代後半から2020年代にかけて、ADBは貸出余力を広げる制度改正を重ねてきた。2025年2月には「資本活用計画」を承認し、既存の資本を活用して業務規模を10年で50%拡大する方針を打ち出した。年間の融資承諾額を2024年の240億ドルから2034年までに360億ドル超へ引き上げる内容である。
2025年10月には、世界銀行との間で30億ドルのソブリン・エクスポージャー交換契約(EEA)を結んだ。互いの国別与信の一部を交換して集中リスクを下げ、資本効率を高める仕組みで、ADBが世界銀行と結ぶ最初のEEAであり、2020年以降で6件目、累計の交換額は90億ドルになった。
2025年11月には、総務会が憲章の改正を承認して「憲章上の貸出上限」(Charter Lending Limitation)を撤廃した。2026年3月1日に発効し、これに代えて名目資本対エクスポージャー比率が資本十分性の枠組みに導入された。ADBはこの変更について、複雑なリスクモデルへの依存を減らし、他の金融機関との比較可能性と透明性を高めるためだと説明している。
民間部門向け業務の拡大も進む。ADBは民間向けの投融資を4倍にする目標を掲げており、日本政府はこれを「業務における民間セクター開発重視への転換」と評価している。調達規則も改められ、国際競争入札で価格だけでなく質を評価する方式の導入と、現地労働力の活用の義務化が行われた。
数字の読み方
ADBの会計年度は暦年で、財務諸表は米ドル建てである。EBRDがユーロ建てで公表するのに対し、ADBはドル建てなので、両行の投資額を比べるときは為替の期ずれに注意する必要がある。
国別の「貸出」には4つの区分が含まれる。すでに払い出した残高、契約発効済みで未実行の約束、契約が未発効の約束、そして承認済みで契約前のものである。たとえばカザフスタンの合計26億2,800万ドルのうち、実際の残高は18億6,200万ドルで、3億7,700万ドルは承認済み・未契約の段階にある。「累計融資額」と「貸出残高」を混同すると規模を過大に見積もることになる。
国別の数字はOCRの分だけで、贈与や技術協力は含まれない。タジキスタンのように贈与の比重が大きい国では、OCR貸出の2億8,900万ドルという数字だけでADBの関与の大きさを測ることはできない。
「承諾額」(commitments)と「実行額」(disbursements)も別の指標である。2025年の承諾額293億ドルに対し実行額は190億ドルで、両者には常に開きがある。年ごとの比較でどちらを使っているかを確かめる必要がある。
ADFの増資の呼び方は紛らわしい。2025年4月に発効した増資は「第13次増資」でありながら通称は「ADF14」である。基金そのものの番号と増資の回数がずれているためで、資料によって表記が変わる。
参考資料
- Asian Development Bank, Information Statement(2026年4月13日提出。加盟・出資・議決権・国別貸出・財務) ↗
- Asian Development Bank — 米証券取引委員会EDGARの年次提出書類一覧 ↗
- アジア開発銀行(ADB) — 財務省(設立の経緯と日本の位置づけ) ↗
- Statement at the 59th Annual Meeting of ADB — 財務省(2026年5月4日、サマルカンド) ↗
- アジア開発銀行神田総裁の再選についての財務大臣談話 — 財務省(2026年9月1日) ↗
- CAREC Program — 中央アジア地域経済協力(参加国、動員額) ↗
- Development Partners — CAREC Program ↗
- ADB Approves $400 Million Financing Facility to Modernize Borders, Facilitate Trade in CAREC Region — CAREC Program ↗
- Structure of the state debt of the Kyrgyz Republic — キルギス財務省(2026年6月30日時点の債権者別残高) ↗
- External Public Debt Statistics — ジョージア財務省 ↗
- Acwa signs USD 226 million financing agreements for Bash II 300 MW Wind Farm in Uzbekistan — Acwa(2026年5月7日、サマルカンド年次総会での署名) ↗
- EBRD invests almost US$2 billion in Central Asia and Mongolia in 2025 — EBRD(タジキスタンの道路事業でのADBの贈与額) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。誤りに気づいた方はお問い合わせください。