GUIDE · 経済・金融2026年9月時点

中央アジア・コーカサスの医薬品市場とは

ウズベキスタンとカザフスタンを中心とする域内の医薬品について、市場の規模と輸入依存の度合い、国産化を促す政策の中身、登録・承認の制度と国際基準への接続、ユーラシア経済連合の共通医薬品市場、価格規制と公的調達の仕組み、そして国際金融機関の与信先として頻出する理由を、大統領令と各国政府・欧州復興開発銀行の公表資料にもとづいて整理する。

中央アジアとコーカサスの医薬品市場は、輸入で成り立ってきた。ウズベキスタンでは市場の約75%が輸入品であり、大統領府が2022年に示した数字では年16億ドルの消費のうち12億ドルが輸入だった。カザフスタンでも、国産品の比率は数量ベースで4割に届いた一方、金額ベースでは特許に守られた高価な輸入品が大きな比重を占める。

この構図を変えようとする政策が、各国でほぼ同じ形をとっている。国内生産に補助と税の優遇を与え、公的調達で買い取りを約束し、登録手続きを国際基準に合わせて外資を呼び込む、という三点である。ウズベキスタンは製薬専用の自由経済区を作り、カザフスタンは単一の公的調達機関を通じて最長で複数年にわたる購買契約を結んだ。

同時に、規制の側も動いている。ユーラシア経済連合の加盟5か国は共通の医薬品市場へ移行し、2025年末で国内規則による登録を打ち切った。非加盟のウズベキスタンは、世界保健機関が信頼できると認めた規制当局の登録を受け入れる方式へ切り替えた。どちらも、五つの国で五回同じ審査を繰り返す状態を終わらせるための制度である。

欧州復興開発銀行をはじめとする国際金融機関の与信先に医薬品関連の企業が頻繁に現れるのも、この文脈にある。倉庫、物流、生産設備、GMP認証の取得はいずれも先行投資が要る一方、需要は人口動態と公的医療の拡大に支えられて読みやすい。

ウズベキスタンの市場規模年16億ドル。うち輸入が約12億ドル(大統領府が2022年4月12日の製薬分野会議で示した数字)
ウズベキスタンの輸入依存市場の約75%が輸入品。市場は2029年までにさらに10%拡大すると見込まれる(欧州復興開発銀行、2026年1月)
ウズベキスタンの政策目標国内生産を3倍に増やし、数量ベースで内需の80%を賄う(大統領令UP-55号、2022年1月21日)
ウズベキスタンの生産(2026年上半期)大企業の医薬品・医薬製剤の生産額は約3兆スム、前年同期比22.3%増。タシケント市が1兆8,000億スムで6割を占める(国家統計委員会)
製薬向けの自由経済区2017年5月3日の大統領令UP-5032号がゾミン、コソンソイ、シルダリヨ、ブストンリク、パルケントの5区を設置。のちにアンディジョンなどが加わった一方、ボイスンのように運営主体が清算された区域もある
カザフスタンの生産(2025年)1,911億テンゲ、前年比8.7%増。分野への投資は1億4,280万ドル、輸出は8,400万ドル(保健省次官の説明、2026年5月19日)
カザフスタンの生産者数209社。うち医薬品が43社、医療機器が166社(同)
カザフスタンの国産比率数量ベースで39.8%(2026年5月時点、医薬品のトレーサビリティ制度の集計)。同年8月時点では40.3%と説明されている
カザフスタンの長期購買契約2026年初時点で31の国内生産者と83件、2,000品目超(同)。2025年12月以降、総額約3,600億テンゲの投資協定7件が結ばれ、474品目の新規生産と1,140人超の雇用が見込まれる
カザフスタンの医薬品の付加価値税国が保障する無償医療と社会医療保険の枠内で提供される医薬品・医療サービスは非課税(3,000品目超)。卸売・小売での販売は2026年1月から5%、2027年1月から10%
カザフスタンの規制成熟度2026年2月、世界保健機関の評価で医薬品規制システムの成熟度レベル3に到達。独立国家共同体では初。登録手続きは210日から100日へ短縮され、規制水準の高い国の製品には15日の迅速手続きがある(同)
ウズベキスタンの価格規制2025年4月1日から、上限流通マージンは処方薬にのみ適用。卸売は仕入価格の15%以内、小売は20%以内で、間に何社が入っても変わらない。参照価格の上限も併存する(大統領令UP-13号、2025年1月28日)
参照価格の為替連動外貨建てで固定された参照価格は、為替が3%を超えて動いた場合は毎年1月と7月に、5%を超えた場合は随時、申請なしに改定される(同)
ウズベキスタンの承認制度2025年10月1日から、世界保健機関の掲載当局または成熟度レベル4の規制当局が登録した医薬品は承認により国内登録される。2026年1月1日から国内・国外の生産者に国内GMP証明が必要となり、登録証の有効期間は5年になった(大統領令UP-137号、2025年8月19日)
ユーラシア経済連合の共通市場加盟国の国内規則で登録された医薬品は2025年12月31日までに連合の規則へ適合させる必要があり、2026年1月1日以降は国内規則にもとづく登録証が失効する
共通市場の進み具合2024年8月末時点で加盟国が交付した登録証は6,642件、審査中の申請は1万1,000件超(うち約8割が連合規則への適合手続き)。連合全体で医薬品の8割超が連合規則へ移行したとされる(ユーラシア経済委員会)

市場の大きさと輸入依存

ウズベキスタンの市場規模について、公表された数字で最も明確なのは大統領府が2022年4月12日の会議で示したものである。同国は年16億ドル相当の医薬品を消費し、そのうち約12億ドルが輸入だった。地域別の偏りも同時に示されており、カシュカダリヤ、スルハンダリヤ、ホレズム、ブハラ、フェルガナの各州では地元の生産者が域内消費の2〜5%しか賄っていないと指摘された。

欧州復興開発銀行は2026年1月、同国の医薬品市場が2029年までにさらに10%拡大する見込みで、現在は約75%を輸入が占めると述べている。政府が掲げる「数量ベースで内需の80%を国産に」という目標との距離が、そのまま政策の課題である。

カザフスタンの数字は生産側から示される。保健省次官が2026年5月19日にアスタナで説明したところでは、2025年の医薬品生産は1,911億テンゲで前年比8.7%増、分野への投資は1億4,280万ドル、輸出は8,400万ドルだった。国内には209の生産者があり、医薬品が43社、医療機器が166社である。医薬品のトレーサビリティ制度の集計にもとづく国産比率は数量ベースで39.8%で、同年8月時点では40.3%と説明されている。

ここで注意が要るのは、数量ベースと金額ベースで比率が大きく違うことである。国産品は安価な後発品が中心なので、数量で4割でも金額では1割台にとどまる。「国産化率」という語を見たときは、どちらの基準かを確かめる必要がある。

ウズベキスタンの国産化政策

枠組みは2022年1月21日の大統領令UP-55号「2022〜2026年における製薬分野の加速的発展に関する追加措置について」である。国内生産を3倍に増やし、数量ベースで内需の80%を賄うという目標を掲げ、地域別の投資事業を付属書で一覧にした。

実施体制の中心は保健省傘下の製薬分野発展庁である。2025年1月28日の大統領令UP-13号は、同庁に健康補助食品と化粧品の産業育成、地方の製薬企業の投資案件の監視、分野のデジタル化という三つの任務を追加した。同令はまた、輸出の後押しとして、米国食品医薬品局または欧州医薬品庁への登録費用を全額、それ以外の国での登録費用を50%、貿易促進基金から補填することを定めている。

製薬に特化した自由経済区も置かれてきた。2017年5月3日の大統領令UP-5032号が、ジザフ、ナマンガン、シルダリヤ、タシケントの各州にゾミン、コソンソイ、シルダリヨ、ブストンリク、パルケントの5区を設けた。薬用植物の栽培に適した自然条件を生かし、原料の深度加工まで一体で行うという設計である。のちにアンディジョンなどが加わった一方、ボイスンのように運営主体が清算された区域もあり、区域の数は時期によって変わる。

生産の地理的な偏りは残っている。2026年上半期の大企業の医薬品・医薬製剤の生産額は約3兆スムで前年同期比22.3%増だったが、うち1兆8,000億スムがタシケント市に集中し、ジザフ州とナヴォイ州はそれぞれ1億スムにとどまる。人材と物流の集積が効く産業であることの裏返しである。

カザフスタンの長期購買契約

カザフスタンで、国が保障する無償医療給付と社会医療保険の枠内で使う医薬品・医療機器は、単一のディストリビューターであるSKファルマツィヤが一括して買い付ける。同社は調達の区分として、国内生産者との長期供給契約、契約製造の発注者との長期供給契約、医療機器の長期供給契約を別々に設けている。国内生産者にとっては需要の大半がここに集まる仕組みである。

この構造を国産化の梃子に使っているのが長期供給契約である。保健省次官の説明によれば、2026年初の時点で31の国内生産者と83件の契約が有効で、対象は2,000品目を超える。企業から見れば、複数年にわたって買い取りが約束されることで、設備の稼働率と増産計画を先に決められる。

投資協定も併走している。2025年12月以降に結ばれた7件は総額約3,600億テンゲで、実現すれば474品目の新規生産と1,140人超の雇用につながるとされる。アストラゼネカ、ファイザー、ロシュが生産の現地化と技術移転に関与していると説明されている。

ただし長期契約には、価格が固定されることの裏返しもある。原材料や為替が動いたときに調整の余地が小さく、国内生産者の採算が悪化しうる。契約件数と品目数は増えているが、それが実際にどれだけ供給されたかは別の指標で見る必要がある。

登録と承認 — 国際基準への接続

ウズベキスタンの制度は2025年に大きく変わった。2025年8月19日の大統領令UP-137号は、2025年10月1日から、世界保健機関の掲載当局(WHO Listed Authorities)に含まれる規制当局、または同機関の世界基準評価ツールで成熟度レベル4と評価された規制当局が登録した医薬品について、承認による国内登録を認めた。審査を一からやり直さず、他国の判断を受け入れるという方式である。

同じ令は、2026年1月1日から国内・国外を問わず生産者に国内GMP証明を求め、登録証の有効期間を5年に統一した。従来、国内生産者には無期限の登録証が出ていたが、これも施行日から5年に切り替わる。医療機器は生命へのリスクに応じて4段階に分類され、リスクの低い区分を除いて臨床試験の結果にもとづく登録が求められる。小売については免許制が廃止され、届出制になった。適合証明の要件としては、医薬品に2027年1月1日から国内GMP証明、医療機器に2027年7月1日からISO 13485への適合証明が加わる。

カザフスタンは別の経路で同じ場所を目指している。保健省次官によれば、同国は2026年2月に世界保健機関の評価で医薬品規制システムの成熟度レベル3に到達し、独立国家共同体では最初の国になった。登録手続きは単一窓口方式の試験導入によって210日から100日へ短縮され、規制水準の高い国の製品には15日の迅速手続きが用意されている。

ユーラシア経済連合の共通医薬品市場

カザフスタン、アルメニア、キルギスの3か国はユーラシア経済連合の加盟国であり、医薬品については連合の共通市場に組み込まれている。加盟国の国内規則で登録された医薬品は2025年12月31日までに連合の規則へ適合させる必要があり、2026年1月1日以降は国内規則にもとづく登録証が失効する。医療機器についても、同日から連合の規則による登録だけが残る。

ユーラシア経済委員会の説明によれば、2024年8月末時点で加盟国が交付した登録証は6,642件、審査中の申請は1万1,000件を超えていた。申請の約8割は既存の登録書類を連合規則へ適合させる手続きで、残る2割が連合規則による新規登録である。同委員会は、5か国で重複していた臨床試験、品質管理手法、処方の作り分けが1本の登録書類にまとまること、GMPやGCPの査察が1か国の結果で全加盟国に認められることを利点として挙げている。

登録は事業者の申請にもとづく手続きなので、進み方は規制当局ではなく製造販売業者の動きが決める。同委員会は、カザフスタンが連合規則による登録証を最初に交付した国でありながら、その後は作業の速度を落としたと述べている。

読み手にとって実務上の意味は二つある。第一に、加盟3か国では登録が域内で通用するため、1か国で承認を取れば市場が広がる。第二に、非加盟のウズベキスタン、アゼルバイジャン、ジョージア、トルクメニスタン、タジキスタンは別の制度で動いているため、域内全体を一つの規制市場として扱うことはできない。

価格規制と公的調達

ウズベキスタンの価格規制は2025年4月1日に組み替えられた。大統領令UP-13号は、上限流通マージンの適用対象を処方薬に限り、卸売は仕入価格の15%以内、小売は20%以内と定めた。この上限は、供給の途中に何社の仲介が入っても変わらない。処方箋なしで買える医薬品には上限マージンが適用されない。

国内・国外の医薬品に対する参照価格の仕組みは維持されている。同じ生産者が同一組成の医薬品を異なる商品名で作っている場合は、最も低い参照価格が全部に適用される(原薬の製造者が違う場合を除く)。外貨建てで固定された参照価格は、為替が3%を超えて動けば毎年1月と7月に、5%を超えれば随時、事業者の申請を待たずに保健省傘下の医薬品安全センターが改定する。

カザフスタンでは税制が価格に効いている。国が保障する無償医療と社会医療保険の枠内で提供される医薬品と医療サービス、そして希少疾患・社会的に重要な疾患の治療・診断・予防・リハビリの医療サービスは付加価値税を免れる。対象となる医薬品は3,000品目を超える。枠外の卸売・小売販売には軽減税率が適用され、2026年1月から5%、2027年1月から10%へ引き上げられる。無償医療と社会医療保険の枠内で使う医薬品を作るための原薬の輸入も免税である。

複数の税率が並ぶことの事務負担は業界から問題視されており、全国事業者会議所アタメケンは、医薬品と医療機器のすべてに5%の単一税率を適用し、医療サービスは非課税とする案を提示している。2026年8月の税法典導入プロジェクトオフィスの会合では、免税が実際には販売価格に反映されなかった経験(新型コロナ流行期の実例)が指摘され、税率の見直しには財政と医薬品アクセスの両面からの分析が必要だとして結論は先送りされた。

なぜ国際金融機関の与信先に多いのか

欧州復興開発銀行の域内向け案件には、医薬品の製造・卸売・薬局チェーンが繰り返し現れる。2026年に公表されたものだけでも、ウズベキスタンの生産者ニカ・ファームへの最大2,000万ドル、製薬2社への最大2,000万ユーロ、薬局チェーンのビッグ・ファミリー・ファームへの1,000万ドル、卸売2位のメロス・ファームへの最大1,500万ドル、ジョージアのアヴェルシ・ファルマへの最大1,000万ユーロがある。

案件の中身は共通している。ニカ・ファームの融資は設備更新と世界保健機関のGMP認証取得に充てられ、後発医薬品と処方薬の生産量を平均140%増やすことが見込まれる。メロス・ファームはブハラとヌクスに倉庫を新設しタシケントの既存倉庫を拡張する。アヴェルシ・ファルマはトビリシで新たに取得した中央倉庫を自動化し、国際的な適正流通基準に適合させる。生産設備の近代化と、物流網の整備という二つに集中している。

理由は制度の側にある。GMP認証は輸出と公的調達の前提条件であり、取得には設備投資が要る。冷蔵を要する医薬品の物流は、倉庫と輸送の品質管理そのものが規制対象になる。いずれも投資回収に時間がかかるうえ、規制の適合が売上の条件になるため、開発金融機関の与信が入りやすい。

読み手はこの点を念頭に置く必要がある。開発金融機関の発表文は、融資先の企業を「同国有数の」と紹介することがあるが、これは同行の顧客としての位置づけを述べたものであって、市場シェアの検証結果ではない。

数字の読み方

第一に、国産化率は数量ベースと金額ベースで大きく違う。カザフスタンの数量ベース40%前後という数字は、特許に守られた高価な輸入薬を1箱も国産に置き換えていなくても達成しうる。国産化の進捗を金額で測るか数量で測るかは、政策の評価をまったく変える。

第二に、市場規模の数字は出所と時点がまちまちである。ウズベキスタンの「年16億ドル」は2022年4月の会議で示されたもので、その後の物価と為替の変動を反映していない。より新しい数字が要るときは、生産額(統計委員会)と輸入額(貿易統計)を分けて追うほうが確かである。

第三に、生産額の集計範囲に注意が要る。ウズベキスタンの上半期3兆スムは「大企業」の分だけを集計したものである。

第四に、公的調達の契約件数は供給量ではない。長期契約83件・2,000品目という数字は、契約が結ばれたことを示すのであって、その分だけ薬が病院に届いたことを示さない。

第五に、登録の件数と市場での流通は別である。ユーラシア経済連合で交付された登録証6,642件は、その医薬品が実際に各国で販売されていることを意味しない。登録証を取ってから発売しない、あるいは特定の国だけで売るという選択は普通にある。

参考資料

この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。

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