解説 · 2026年9月時点
アスタナ・タイムズは、カザフスタンと中央アジアを英語で報じる媒体である。2010年11月、カザフスタンの首都で開かれた欧州安全保障協力機構(OSCE)首脳会議の直前に、新聞とウェブサイトが同時に立ち上げられた。カザフスタン国内で発行される英語の定期媒体としては最も規模が大きく、外国の政策担当者、駐在員、投資家、研究者が読者に想定されている。
記事はすべて無料で読める。2026年9月時点でサイトには約2万3,100本が掲載されており、最も古いものは2012年である。政府と大統領府の発表、省庁の統計、国有企業の計画、外国企業との合意といった経済関連の材料が、英語で比較的早く出てくる。日本語圏からカザフスタンの投資動向を追うとき、一次資料に当たる前の見取り図としてこの媒体が使われることが多い。
発行主体は「独立ジャーナリスト・ギルド」という地域非営利団体で、通信情報省に登録番号N 11208-Gで登録されている。創刊の経緯には政府機関が関わっており、その事実は同紙自身が5周年の記事で説明している。読み手が媒体の性格を判断できるよう、その内容を以下に整理する。
| 正式名 | The Astana Times |
|---|---|
| 創刊 | 2010年11月。新聞とウェブサイトを同時に立ち上げた |
| 発行主体 | 地域非営利団体「独立ジャーナリスト・ギルド」(Regional Non-Profit Organization Guild of Independent Journalists) |
| 登録 | カザフスタン共和国通信情報省の登録番号N 11208-G(2010年11月1日) |
| 拠点 | カザフスタン・アスタナ |
| 言語 | 英語のみ |
| 創刊時の編集長 | ロマン・ヴァシレンコ。当時はカザフスタン外務省国際情報委員会の委員長を務めていた |
| 創刊号の制作 | カザフスタンスカヤ・プラウダ紙とエゲメン・カザクスタン紙が共同で制作した |
| 現在の編集長 | ジャンナ・シャヤフメトワ(2016年入社) |
| 運営編集長 | アッセル・サトゥバルディナ(2017年入社)。政治・経済・ビジネス・投資と分析欄、動画部門を担当 |
| 報道部門責任者 | アイダ・ハイダル(2022年入社) |
| デジタル部門責任者 | アイダ・ドスベルゲノワ(2022年入社) |
| 発行形態の変遷 | 2010年12月のOSCE首脳会議に合わせた特集号から始まり、2011〜2012年は月刊、2013年1月から月2回。2015年時点では隔週の印刷版とウェブサイトの併用 |
| 掲載記事数 | 2026年9月時点でサイトに約2万3,100本。最も古い記事は2012年 |
| 購読料 | 無料。有料の壁は設けていない |
| 広告 | 自社で直接販売する。掲載広告の内容については広告主が責任を負うと明示している |
| 動画 | 2024年にYouTubeチャンネルを開設。特別企画の動画と週次のニュースダイジェストを配信 |
| 公式サイト | astanatimes.com |
創刊の経緯
同紙が2015年12月に掲載した5周年の記事によれば、この新聞の構想は2010年12月にアスタナで開かれたOSCE首脳会議の準備の過程で生まれた。創刊時の編集長ロマン・ヴァシレンコは、この記事のなかで「カザフスタンが訪問する56のOSCE参加国の首脳と5,000人の代表団員に何をどう示すか、最高レベルで問いが立てられた」と述べている。
英語の新聞を出すという案はその議論から出た。創刊号は、ロシア語とカザフ語の二大紙であるカザフスタンスカヤ・プラウダとエゲメン・カザクスタンが共同で制作し、当時カザフスタン外務省の国際情報委員会委員長だったヴァシレンコが編集長を務めるよう要請された。
首脳会議向けの号が好評だったことから、カザフスタン関連のニュースを定期的に英語でまとめる媒体として続けることが決まった。2011年から2012年までは月刊、2013年1月から月2回の発行に移り、2015年の時点では隔週の印刷版とウェブサイトを併用していた。現在の印刷版の有無と発行部数は、公表資料からは確認できない。
発行主体と資金
発行主体は地域非営利団体「独立ジャーナリスト・ギルド」である。カザフスタン共和国通信情報省に登録番号N 11208-Gで登録されており、登録日は2010年11月1日である。この登録番号と発行主体名は、同紙が会社概要のページに自ら記載している。
この非営利団体の出資者、理事構成、収入の内訳は公表されていない。年次報告や財務諸表にあたるものも公開されていない。したがって、資金がどこから来ているかを外部から確かめる手立てはない。
収入源のうち公表されているのは広告である。同紙は広告掲載の案内ページを持ち、問い合わせ先を示している。掲載された広告の内容については広告主が責任を負い、広告のために提出された素材は返却しないと明記している。記事そのものに有料の壁はなく、購読料は取っていない。
編集体制
編集長はジャンナ・シャヤフメトワである。カザフスタンのメディアで9年以上の経験を持ち、2016年に入社した。同紙によれば、彼女の下でカザフスタン各州を扱う地域プロフィール欄、スタートアップの連載、2024年開設のYouTubeチャンネルが立ち上がった。
運営編集長のアッセル・サトゥバルディナは政治、経済、ビジネス、投資を担当し、分析欄と動画部門を率いる。ナザルバエフ大学で政治学・国際関係の学士号を取得し、2017年の入社前はテングリニュースの英語編集部で記者を務めていた。
報道部門の責任者アイダ・ハイダルは、政府と大統領の動静、社会、経済、投資環境を扱う。アスタナ国際フォーラム、中央アジア貿易フォーラム、2023年のIMF・世銀年次総会などの特別企画も担当する。2022年の入社前はカザク・テレビとアタメケン・ビジネスでテレビ制作と取材に従事していた。
このほかデジタル部門の責任者アイダ・ドスベルゲノワが、YouTube、SNS、ポッドキャストを含むデジタル戦略を統括する。スタッフ記者にはダナ・オミルガジ、アヤナ・ビルバエワ、アイマン・ナキスペコワ、ファティマ・ケメロワ、ナギマ・アブオワ、ナルギズ・ライムベコワらが名を連ねる。会社概要に名前が載る編集者と記者はあわせて10人ほどで、通信社のような大人数の取材網は持たない。
扱う範囲
サイトの区分は、カザフスタン国内(ネイション)、首都アスタナ、地方(カザフスタン地域プロフィール)、ビジネス、中央アジア、国際、社会、文化、スポーツ、人物、論説(オピニオン)である。大統領の年次教書に対応する「ステート・オブ・ザ・ネイション」、アスタナ国際フォーラム、上海協力機構、ワールド・ノマド・ゲームズといった行事ごとの特設欄も置かれる。
投資・産業の分野では、大統領令、省庁の発表、国営企業の計画、外国企業との合意、国際金融機関の融資といった材料が扱われる。記事の多くは発表を出発点にしたもので、独自取材による調査報道とは性格が異なる。
動画とインフォグラフィックにも力を入れており、2024年に開設したYouTubeチャンネルでは専門家へのインタビューと週次のニュースダイジェストを配信している。SNSはX、フェイスブック、インスタグラム、テレグラム、TikTok、リンクトイン、スレッズで運用されている。
記事の蓄積
サイトに掲載されている記事は、2026年9月時点で約2万3,100本である。年ごとの本数は2013年が約1,100本、2015年から2019年が年1,400〜1,600本、2020年は約880本、2022年が約1,830本、2023年が約2,530本、2024年が約2,860本、2025年が約2,750本で、2026年は9月上旬までに約1,660本である。2020年の落ち込みは新型コロナウイルス禍の時期にあたる。
サイト上で辿れる最も古い記事は2012年のものである。創刊は2010年11月だが、初期2年分の記事はウェブ上のアーカイブに含まれていない。2010年から2011年にかけての記事を参照する必要があるときは、この点に注意が要る。
記事は分野別のほか、行事や選挙ごとの特設欄にも分類されている。2019年、2022年、2023年の選挙、2022年の憲法改正国民投票、2024年の国民投票にはそれぞれ専用の欄があり、その時期の一次的な発表を英語でまとめて追える。
域内の他の英語媒体との違い
カザフスタンで英語の情報を出す主体は複数あるが、成り立ちが違う。国営通信社のカズインフォルムは大統領テレビ・ラジオコンプレックスに属する国有の組織で、政府発表の公式な配信経路にあたる。アスタナ・タイムズは非営利団体が発行する新聞であり、国営通信ではない。
中央アジア全体を扱う英語媒体としては、1999年にキルギスで創刊されたタイムズ・オブ・セントラルアジアと、米国の非営利報道組織ユーラシアネットがある。前者は現在は米国の所有者のもとで運営され、後者は助成金で運営される。アスタナ・タイムズはカザフスタン国内に編集部を置く点で両者と異なり、政府の行事や省庁の発表に近い位置から報じる。
この違いは、同じ出来事についての記述を突き合わせるときに効いてくる。政府の計画や合意の内容を早く知るにはアスタナ・タイムズが速いことが多い一方、その計画がどう実施されたかの検証は別の媒体の記事や発表主体の後続資料に当たる必要がある。
読むときの注意
報道の日付と数字は、可能なかぎり発表主体(省庁、中央銀行、統計機関、企業)の一次資料と突き合わせて確認するのが確実である。記事の地の文に日付や数値が書かれていても、引用元の発言や公表資料にその記述がない場合がある。
実例がある。2026年8月、キャセイパシフィック航空の香港〜アルマトイ線について、同紙は就航日を2027年1月9日と報じた。しかし航空会社が2026年6月2日に出した発表文で確認できるのは「2027年第1四半期」までで、日付までは書かれていない。空港側の資料にも記載はない。就航日のように後から動きうる数字は、この差がそのまま誤りになる。
もう一点は、発行主体の資金構成が公表されていないことである。創刊の経緯に政府機関が関わっていたことは同紙自身が説明しているが、現在の収入の内訳は分からない。政府の政策や国有企業の計画を扱う記事を読むときは、この点を念頭に置いておく必要がある。
参考資料
- About Us — The Astana Times(発行主体、登録番号、編集体制) ↗
- Astana Times Celebrates Five Years Informing Nation, Expats and Visitors — The Astana Times(2015年12月7日。創刊の経緯) ↗
- Contact — The Astana Times(編集責任者と連絡先) ↗
- To Advertise — The Astana Times(広告掲載の条件) ↗
- Astana Summit 2010 — OSCE(創刊の契機となった首脳会議) ↗
- Cathay Pacific announces plans to launch direct flights to Almaty — Cathay Pacific(2026年6月2日。就航時期は「2027年第1四半期」) ↗
- The Astana Times(公式サイト・トップ) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。誤りに気づいた方はお問い合わせください。
